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ケモミミTS魔法少女は何を見る~俺は天才だ!~  作者: 火蛍
13章 アリア・クエスト
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アリア・クエスト

 その日の夜、カレンは高熱を出して病床に伏していた。かつてなく衰弱した姉の姿を見てアーサーたち三兄妹はただ狼狽えることしかできなかった。これまで何かをしてもらうばかりで逆にこういう状況になったときにどうすればいいのかわからなかったのである。

 ハルトとループスがまだ帰ってきてないことも焦りに拍車をかけていた。


 「皆さん、ちょっといいですか……」


 狼狽えるアーサーたちにアリアが声をかけた。彼女はカレンに代わってアーサーたちを導くつもりであった。彼女にとっては突発のクエストも同然である。


 「皆さん。こういう時は力を合わせるんです」

 

 アリアはアーサー、ロレント、ノエルを台所に集めるとこれからどうしていくべくかを三人に伝えた。今はアリアが指導者になれるものの、アリアもいつまでもここにいるわけではない。もしそうなったときにどうすればいいのかを訓示する意味も兼ねていた。


 「いいですか?アーサーさんとロレントさんには私からお料理のやり方を教えてあげます」

 「ノエルは……?」

 「ノエルさんは……カレンさんの傍にいてあげてください。たまに声をかけて……してほしいことを聞いてあげてください。弱ってるときに一人でいるのは……心細いですから」


 まずは三兄妹に家事がこなせない現状を打開する必要があると考えたアリアはアーサーとロレントにそれぞれ適した家事を教え、まだ幼いノエルにはそれ以外のことをさせることにした。

 それを受けたノエルはカレンの寝室に赴き、アーサーとロレントはアリアと共に台所に残る。


 「カレンさんはとてもお疲れみたいですから、お腹に優しくて……栄養のあるものを作ってあげましょう」

 「俺たちに作れるかな?」

 「やったことないから心配……」 

 「大丈夫です。初めての人でも作りやすいものがあります」


 料理経験がないことを不安に感じているアーサーとロレントにアリアはフォローを入れると台所にある食材を見繕った。すると彼女の言う『作りやすいもの』の材料はすでにそこに揃っていた。自分の得意分野ということもあり、普段よりも饒舌になりながら語る。


 「まずは食器を用意しましょう。小さいお鍋はありますか?」

 「これとかどうかな?」

 「いいですね。それを使いましょう」

 

 アリアが食器の有無を尋ねると、アーサーが片手で持てる程度の大きさの鍋を用意してきた。少しばかり大きいような気はしたが別の器に盛り付け直せばいい範疇であった。


 「卵と麦を使います。先に麦をお鍋に入れてから水を注ぎましょう」


 アリアに指示され、アーサーとロレントは言われたとおりに鍋に麦を入れて水を注いだ。アリアは魔法を行使して火を起こし、鍋を火にかける。


 「卵はいつ使うの?」

 「卵は鍋の中の麦に火が通ってから入れます。卵は麦よりも火が通りやすいので一緒に入れるとできあがったときに硬くなっちゃうんです」


 火が通るのを待つ間、アリアは料理の知識をアーサーとロレントに伝授した。これまでにない事態を前にしていることもあり、二人はアリアの言葉に真剣に聞き入った。


 「火が通るってどうなればいいの?」

 「混ぜたときに粘り気が出るぐらい柔らかくなればいいです。そのままだと鍋の下の麦が焦げちゃうので……混ぜてあげてください」

 「水の中にあるのに焦げるの!?」

 「はい、焦げますよ」


 アーサーとロレントは水の中にあるものが焦げるという現象が存在することに驚かされた。その反応はアリアが昔に煮込んでいたものを焦がしたときと全く同じであり、アリアはどこか懐かしさを覚えた。

 そんなこんなで煮込むこと数分、水を吸った麦が鍋の中で膨張してグツグツと音を立てはじめた。ロレントが混ぜて硬さを確かめるとアリアの言っていたように粘り気が生じるようになっていた。


 「アリア姉ちゃん。もういいかな?」

 「どれどれ……大丈夫です。では卵を入れましょう。卵を割ったことはありますか?」

 「ない」

 「ないよ」


 アリアは卵の割り方を知らないことに逆に驚かされた。しかし今はそれに呆れている場合ではない。アーサーとロレントに卵の割り方も教えることにした。


 「卵はまず固いものに軽くぶつけて殻にひびを入れます。ひびを入れたらこうやって……ね、簡単ですよ?」


 アリアは鍋の火を弱めると卵を一つ割って実演してみせた。アーサーとロレントは見たままに卵を手に取り、恐る恐る卵を角にぶつける。しかしおっかなびっくりでぶつける角度が浅いせいか、はたまた衝撃が弱いせいか、殻に中々ひびが入らない。


 「もう少し強めにやってみましょう……そうです」

 「できた!」

 「ひびを入れたら次は……」


 アリアの手ほどきを受けたアーサーとロレントはなんとか自力で卵を割ることができた。卵を合計三つ割ったアリアは次の工程に入る。


 「この卵を混ぜましょう。黄身を潰してこれ全体が黄色になるぐらいが目安です。ロレントさんにやってもらいましょう」


 ロレントはアリアに言われるがままに卵の黄身を潰してかき混ぜた。単純作業ということもあり、特に手ほどきを受けることなく完遂させることができた。


 「ロレントさんに混ぜてもらった卵をお鍋に入れちゃいます。卵の色が変わってドロドロしなくなったら……完成です」


 アリアは卵を鍋の中に注ぎ込むと弱火でじっくりと煮込む。ものの数分で卵に熱が通り、卵とじ状に変化する。アリア特性の麦卵粥の完成であった。


 「カレンさんに食べてもらう前に少し味見をしてみましょう……どうですか?」


 アリアはアーサーとロレントに味見をさせた。アーサーとロレントは小さじ一杯程度に粥を掬い、口に含めて味を確かめる。二人はちゃんと人前に出せる味になっていることを己の舌をもって確認し、揃って首を縦に振った。



 こうして、アーサーとロレントはアリアの手ほどきを受けて人生で初めての手料理を完成させたのであった。

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