アーサーとデート
ハルトはアーサーを連れ出し、二人で街中を歩いていた。彼女は外出を通じてアーサーが何に適性を持っているのかを見出そうとしていた。
「アーサーは普段はどういうところに行くんだ?」
「買い出しで商店街に行くぐらいかな。カレン姉ちゃんがいない間はロレントとノエルから目を離せないし」
他の姉弟の視線を逃れてラフになったアーサーは気兼ねなくハルトに語った。外見年齢が近いのもあってか、気を許しているようであった。
家庭事情的に仕方がないと強引に納得しつつもハルトはアーサーたちが不憫に思えてならなかった。そこで急遽予定を変更し、自分と二人きりのときぐらいアーサーにいい思いをさせてやることにした。
「何か食べたいものあるか?」
「えっ。お昼は食べたけど……」
「そうじゃなくて。おやつだよおやつ」
アーサーは食後のおやつという概念が欠落していた。ハルトに言われて久々にその存在を思い出したぐらいであった。
「あー……ハルト姉ちゃんのオススメでいいよ」
おやつという概念を思い出したものの、アーサーはこれといって食べたいものが思いつかなかった。そのためハルトに任せることにした。
「そうだな……アレとかどうだ?」
ハルトは近くから漂う甘い香りに誘われ、香りのする方へと歩みを寄せた。そこには作り立てのドーナツが売られていた。
「おばちゃん!そのドーナツ二つくれ!」
「あいよ。四百マナね」
ハルトは迷うことなくドーナツを二つ購入した。一つは自分の分、もう一つはアーサーの分である。一つ二百マナ、ハルトにとってはそれなりだったがアーサーから見れば値の張る代物であった。
「どうした?食えよ」
「俺だけ食べちゃっていいのかなって思うと食べられなくてさ……後でロレントとノエルに知られたら怒られそうで」
ハルトがドーナツを頬張る一方、アーサーは弟と妹に遠慮して中々ドーナツを口にすることができなかった。彼の身に沁みついた長男気質は筋金入りの本物であった。
「頼みがあるんだけど……弟たちの分も買ってもらえないかな」
アーサーはハルトに頼み込んだ。弟たちに分け与えることができなければ自分だけ食べることに罪悪感を覚えてしまうのである。
「しょうがないなぁ……おばちゃん、さっきのドーナツあと五つ!」
アーサーの頼みに折れたハルトはドーナツを追加で五つ購入した。カレン、ロレント、ノエル、ループス、そしてアリアの分である。
「凛々しい男の子に可愛いお嬢ちゃん、お似合いよー」
ドーナツ売りのおばさんはアーサーとハルトに茶々を入れた。二人は決してそういう関係ではないが言葉にされると嫌でも意識させられてしまう。体格差が小さいだけになおさらであった。
「そういうのじゃないっつーの。参っちゃうよなぁ」
「……うん」
「アーサー?」
「ん?何でもないぞ!なんでも」
一瞬ぼんやりと上の空になっていたアーサーの顔をハルトが覗き込むとアーサーは慌てて平静を取り繕った。思春期に入りかかっている年頃ということに加え、あの茶化しのせいでハルトのことを『異性』として少なからず見てしまっていたのである。
「やっぱり帰ろう!これは俺が持って帰るから!」
アーサーはどこか取り乱してドーナツをハルトの手から回収すると慌てて帰って行ってしまった。ハルトは挙動不審な様子に首を傾げつつもその後ろを追いかけてゆっくりと帰っていくのであった。




