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ケモミミTS魔法少女は何を見る~俺は天才だ!~  作者: 火蛍
13章 アリア・クエスト
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夜中にイノシシ狩り

 日が沈み、完全に夜になった頃。ハルト、ループス、カレンはクエストのために再度農耕地帯を訪れていた。


 「何それ」

 「んー?タテイノシシを狩るために使う道具だけど」


 ハルトは大型銃に弾を込めながらカレンの疑問に答えた。タテイノシシ相手に真正面を切って接近戦を挑むのは危険が高いため、ハルトが遠距離から銃撃で仕留めるのが作戦であった。

 攻撃役はハルトだがループス、カレンとその友人たちにも作戦実行に伴う役目があった。


 ハルトは大型銃と予備の弾薬を携行して一番大きな果樹によじ登り、枝の上にうつ伏せに身体を寝かせると枝の隙間から地上を見下ろしながら銃を構えた。これでタテイノシシの死角となる樹上からの狙撃が可能になり、それを実行するのは銃の心得を抜きにしても小柄で体重の軽いハルトが最適解であった。


 狙撃の構えに入ったハルトはゴーグルを装着し、スコープ越しに外の様子を覗き込んだ。枝葉のせいで視界の開きはあまりよくないものの、それでも必要な視野は十分確保できている。そもそも優れた聴覚を持つハルトにとっては最低限標的の形がわかる程度に視界が確保できていればそれで充分であった。


 「で、私たちはこれでいいカンジ?」

 「大丈夫だ」


 カレンとその友人たちは農園内の地面に堕ちた果樹を拾い、ハルトが照準を合わせた地点に集中させた。匂いを一点に集中させればそれにつられてタテイノシシがやってくるだろうという狙いである。

 続いてタテイノシシにとっての農園への入口の固定化とその逃げ道を塞ぐため、ループスが農園の外周に網を張った。これで作戦の下準備は完了であった。ループスたちはタテイノシシに人の気配を悟られないようにハルトを一人残して農園から遠ざかった。


 作戦開始から数十分、ハルトは樹上からスコープを覗きながらタテイノシシが来るのをじっと待ち続けた。ループスたちはハルトからアクションを起こすのをじっと待ち続ける。


 「ねえ、私たち何もしてないけど大丈夫なの?」

 「大丈夫だ。獲物はきっと来る」


 自分たちがじっと待機を続けることに焦燥感を覚えたカレンの友人がループスに行動の催促をかけるがループスは待つことを何とも思っていない様子であった。彼女の嗅覚はすでに獣の匂いを捉えており、近くに今回の獲物がいることを察知していたのである。農園に残っているハルトも同様に獣の足音を聴き取っており、足音のする方に照準を向けていた。


 さらに待ち続けること数分、ついに獣の匂いの主が農園にその姿を現した。

 ずんぐりとした大きな体躯、大きくエラが張ったまさしく盾のように重厚な顔、正面に向かって大きく伸びた二本の牙。今回の獲物、タテイノシシである。しかもその数四頭、最初にここに訪れた個体の家族のようである。ハルトは標的の姿を確認するとその中のリーダー格と思わしき巨大な個体に照準を合わせ、足を止める瞬間を待った。


 「でっか……」

 

 カレンたちはタテイノシシの大きさに驚愕した。タテイノシシはカレンの足一本分ほどの体高を誇っており、そんなのに突撃を仕掛けられたらケガでは済まされないことは目に見えて明らかなほどであった。


 タテイノシシは鼻息を荒げながら餌となる果樹を探し回った。彼らは嗅覚を頼りに餌を探しているらしく、ハルトたちの狙い通りに果樹が密集している場所へと誘導されていく。ものの数分でそこへとたどり着いたタテイノシシたちは足を止めて果樹を貪り始めた。


 狙撃ができる絶好の機会を得たハルトは指にかけていた引き金を引いた。次の瞬間に炸裂音が響き、紫電のようなものが雷の如く空をかけるとタテイノシシの胴体をいともたやすく貫いた。狙撃されたタテイノシシは反応を見せることすらなく即死し、音を立てて地面に崩れ落ちる。


 リーダーが突然死んだことに気づいた他のタテイノシシたちはその場から逃げようと走り始めた。ここからはループスたちの出番であった。まずボスをハルトが仕留め、その残党をループスたちが各個撃破していくのが今回の作戦であった。


 「行くぞ」

 

 ループスは剣を抜くと農園へと向かっていった。カレンたちも照明を持ってループスの後を追いかける。彼女たちはハルトやループスと違って聴覚や嗅覚に頼れないため、視覚情報を得るために照明を使用せざるを得ない。武器を持てない分はハルトに狙撃してもらう必要があるため、タテイノシシが足を止めるようにうまく時間を稼ぐ必要があった。


 網に引っかかり、それを突き破ろうと暴れるタテイノシシの一頭に対し、ループスは網の向こうから剣をタテイノシシの顔に突き立てた。白熱化した刃は固く変質したタテイノシシの顔をまるでバターのように深々と抉り、剣の熱で脳を焼かれたタテイノシシは当然のように即死して地に伏す。

 ループスは突き立てた剣を引き抜くとタテイノシシを足蹴にして死亡を確認し、討伐の証としてその首を切り落とした。 


 「ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいって!?」

 「体当たりされたらマジ死ぬって!?こっち来んなし!?」


 カレンとその友人たちは照明を手にタテイノシシ一頭を陽動していた。間近で見るタテイノシシの巨体はかなりの迫力があり、動揺して気が立っているのもあってすさまじい暴れぶりであった。

 目の前に立ちはだかるカレンたちを突き飛ばすべく助走をつけようとしたところでタテイノシシは自身の斜め後ろからハルトの狙撃を受けて倒れた。その数十秒後、取り残された最後の一頭もハルトの狙撃によって倒され、タテイノシシ狩りは終了を迎えた。


 「……お、終わっちゃった」

 「はぁー、マジヤバ」


 カレンたちはかつてない緊張感から解放されて膝から崩れ落ちてへたり込んだ。そこへ一仕事を終えたハルトが樹から降りてきて合流する。


 「お疲れー。あとは休んでていいぞ」


 ハルトは銃のボルトを起こして空になった薬莢を排出しながら気楽に言い放った。カレンたちはハルトとループスの異常なまでの戦闘能力にただただ圧倒されるばかりであった。

 だが目を疑う光景はまだ終わりではなかった。



 「これ思ったより少ないな」

 「お前の撒き方が下手なんじゃないのか?」


 農園に張った網に沿って倒したタテイノシシの血を躊躇なくばら撒くハルトとループスの姿がカレンたちの目に鮮明に焼き付いた。

 その瞬間からカレンたちはハルトのことを愛玩動物として見ることはできなくなったのであった。

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