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ケモミミTS魔法少女は何を見る~俺は天才だ!~  作者: 火蛍
3章 ブルームバレー
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見られぬ花畑

 「はぁー……」


 夜、一通り町を歩き回ったハルトは宿に戻るとこの後の予定を考えていた。

 一晩休み、翌日は花畑を見に行くことは決めていたのだがその後のことは何も考えていない。用事がなければすぐに次の目的地を探すことも視野に入っていた。


 「アレ、ちょっと試してみるか」


 ハルトはバッグの中から昼間に買った香水を取り出した。そして買ったときに伝えられた使い方を思い出し、衣服を脱ぎ棄ててシャワーを浴び身を清めた。シャワーを浴びて汚れを落としたハルトは香水の入った小瓶のふたを開け、ごく少量を手のひらに染みこませてそれを顔や手足に塗り込んで馴染ませた。


 「おぉ……やっぱ落ち着くなこれ」


 塗り込んですぐに香りは仄かにハルトの鼻に届いた。効能通りに気分が落ち着いてリラックスすることができた。このまま目を閉じればぐっすりと眠れそうであった。

 ハルトはふと、この香りを封じた弾を作ることを思い立った。嗅覚に訴えかける方法での自衛というのも面白そうであった。しかし今は疲労でそれを実行に移せるような気分ではない。


 「まあ明日でいっか」


 新しい弾薬の開発を実行に移さず、ハルトはベッドの上に横たわった。瞳を閉じるとそのまま意識を暗闇の中に委ねるのであった。


 

 次にハルトが目を覚ましたのは翌日の朝であった。すでに香水の残り香はきれいさっぱり無くなっていた。それと同時にその効力の強さにハルトは戦慄した。ほんのわずかな量であれだけの効き目があるのだ、用法・容量を間違えればどうなっていたか……

 それ以上のことは考えないことにした。


 「今のうちに新しい弾を作るか」


 昨夜の発想を覚えていたハルトは新しい弾薬の開発に取り掛かった。魔法を封じるのではなく、弾丸に微量の香水を詰めて空中で炸裂させることで霧状に散布し、広範囲にこの香りを広げることで戦意の喪失を狙う。

 一度魔法を発動するという開発過程をすっとばせたために弾はほんの数分で一発完成させられた。


 「さて、そろそろ出かけるか」


 新しい弾薬を開発したハルトは外出のための身支度を済ませて宿を出るのであった。目指すはこの町一番の花畑、まだ見ぬ景色に期待を膨らませながらハルトは花畑を目指して歩いた。


 「なあなあ、花畑はどこに行けばいいんだ?」

 

 ハルトがこの町に住んでいるのであろう人に道を尋ねると、どういうわけか渋い表情を見せた。


 「君、花畑を見に行くのかい?」

 「ああ、もちろん」

 「まだ小さいのにずいぶんとお金を持ってるんだねぇ」


 ハルトは彼が何を言っているのかよくわからなかった。確かにお金はそれなりに持っている。香水を購入できるぐらいには余裕もある。

 

 「まあそれなりには」

 「そうかい。花畑はここからまっすぐ行けば着けるよ」


 花畑までの道のりを聞いたハルトはその先の花畑を目指して弾丸のように駆け抜けていった。


 「えぇー!いくらなんでも高すぎないか!?」

 

 花畑にたどり着いたハルトはその入場料に再び驚愕させられた。その額なんと一万マナ、昨夜の宿の宿泊費と比べても十倍、香水の二倍以上も高額であった。町の人が自分にあんなことを尋ねてきた意味が分かった。

 フィリアもこんなに高額を払って花畑を見たのだろうか。いや、そんなはずはない。


 「高すぎと言われましてもこれが設定された金額ですので」


 ハルトが尻尾を上下に叩きつけるように振りながら抗議をしても花畑の入り口の人間はその一点張りであった。これでは埒が明かない。ハルトはこの場は諦めて帰ることにした。


 「まったく!いくらなんでもぼったくりすぎだろアレは!」


 ハルトは怒って恨み節を吐き捨てながら道中を歩いた。花畑を売りにして観光客を集めている町なのにこれでは完全に庶民お断りである。


 「お嬢ちゃんも花畑に行ったのかい?」


 一人の老爺がハルトに声をかけた。その口ぶりから察するに過去にも自分のような反応の人間を見てきたようであった。

 

 「行ったんだけどぼったくりもいいところじゃねえか。これが本当に花の町なのか?」

 「昔はもっと安く入場できたんだよ。一人二千マナでな」


 老爺曰く、花畑はかつてはこんなに高額を取られることはなかったようであった。今の五分の一である。

 

 「じゃあなんでこんなことに?」

 「花畑の運営に上流階級の人間が取り入るようになってからこんなことになったんだよ。今はなんとか土産物の売り上げで成り立っているがこれではこの町が廃れるのも時間の問題だな」


 老爺は花畑の入場料が高額化した原因と町の現状を嘆いた。やはり上流階級の人間が絡むとろくなことにならないとハルトは内心憤りを高めた。


 「なんとかできないのか?」

 「現状を何とかしようと声を上げる者はいるよ。気になるなら会いに行ってみるといい」


 町の中にも上流階級の人間に対して異を唱える者はいるようであった。ハルトはその人物と接触することにした。


 「その人の名前を教えてくれ」

 「ヤグルマっていう人だよ。いつも声を上げながら行進してるからこの町にいればそのうち出会えるよ」


 ハルトは老爺から耳寄りな情報を入手した。そのヤグルマという人物に会うためにはこちらから出向くよりも近づいてくるのを待つ方がいいとのことであった。昨日遠方から聞こえた声の正体はその人物であることを確信したハルトはこの付近で彼が通りかかるのを待つことにした。


 

 こうして、花畑をめぐるハルトの戦いが始まったのであった。

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