腕白兄妹
「ハルトお姉ちゃんたちも冒険者なの?」
「カレン姉ちゃんとはどこで知り合ったの?」
「ねえ教えて教えてー」
カレンとアリアが夕食を作っている間、ハルトとループスはカレンの弟たちことアーサー、ロレント、ノエルの相手をしていた。
育ち盛りで遊びたい盛りの三人を前にハルトとループスはタジタジであった。中でも兄弟の中で最も背丈がハルトに近いアーサーはハルトに興味津々であった。
「ハルト姉ちゃんって歳いくつなの?」
「えっ!?あぁ、いくつだったっけ……」
ハルトは年齢をどう答えればいいのか悩んでしまった。彼女の実年齢は十五を超えているが外見年齢は十から十一歳程度に退行しているため、どちらをベースにすればいいのか迷っていた。
「とりあえず十一って答えておけばいいんじゃないか?」
「そうそう。十一だよ十一」
ループスからさりげなく耳打ちされたハルトは外見をベースにした年齢を答えた。
「えー。じゃあ俺と一つしか違わないんだ」
ハルトの年齢を聞いたアーサーは相槌を打つ。彼は十歳であったため、歳の差もほとんどなかったのである。
「ループス姉ちゃんはいくつなの?」
「俺は……十五だな」
「じゃあカレン姉ちゃんより年下だね」
ロレント曰く、カレンの実年齢はハルトとループスよりも上であることが窺えた。そう考えるとカレンが母親代わりに奮起するのも納得できる。
「ロレント、二人に私の歳バラしたら今夜のおかず抜きだかんね!」
台所からロレントを牽制するようにカレンの声が飛んでくる。ここでの話し声は台所まですべて筒抜けであった。そしてこの家庭内におけるカレンの発言は絶対であり、ロレントはそれ以降一切年齢の話に触れることはなかった。
そんな中、四姉弟の末っ子ノエルは一人でどこかへ行こうとしていた。それに気付いたハルトは彼女を気にかけて声をかける。
「ノエルちゃんどこ行くの?」
「お風呂。ご飯の前に入るの」
ノエルはお風呂に入りたいようであった。カレン家では夕食の前に風呂に入るのが家長であるカレンを除く三兄妹のルールである。そして三人は今日はまだ風呂に入っていなかった。
「忘れてた。風呂沸かしてたっけ?」
「いや、まだ」
アーサーとロレントはそのことを忘れていたらしく、浴槽に湯を張っていなかった。今から入っても水風呂にしかならない。
「よし、お姉ちゃんたちに任せろ」
それを聞いたハルトが一瞬ループスを一瞥すると名乗りを上げた。ハルトの視線から何をするのか察したループスはそれに協力すべく共に立ち上がる。
「まずここに水を張りな」
ハルトはアーサーとロレントに浴槽に水を張るように指示を出した。兄たちが作業する姿をノエルはじっと眺める。
ものの数分ほどで浴槽は冷たい水で満たされた。
「ループス。お前の出番だ」
ハルトにそう言われたループスは腰に携えた魔法剣を抜いた。
「危ないから少し下がってろ」
ループスは剣に魔力を込めて刀身を赤熱化させると、その刀身を水の中へと突っ込んだ。刀身と水の接点からは湯気が立ち上り、ほんの十数秒で浴槽に張った水は沸騰して熱湯へと変化した。
アーサーたち三兄弟はその光景を見て目を見開いて驚く一方、役目を終えたループスは剣を引き上げると魔力を解除し、滴る湯を払って剣を鞘へと納めた。
「……熱っ!?」
ハルトは湯加減を確かめるべく右手の人差し指を湯の中に入れたが反射的に手を引っ込めた。お湯にはなったものの、それはまだ人がゆっくりと浸かれるような状態ではなかった。
「ループス姉ちゃんすげー!」
「今の何!?何をしたの!?」
アーサーとロレントはループスが披露した魔法剣の能力に大興奮していた。それもそのはず、彼らは生まれて初めて魔法を間近で見たのである。彼らは用が済んで戻っていくループスの後ろを追いかけて風呂場から去っていった。
「ちょっと待とうか。そうしたらすぐ入れるようになるから」
ハルトは風呂場に残っていたノエルに優しく言い聞かせた。今すぐに入ることはできないが夕食までには間に合いそうであった。
「入れるようになったらまた呼んであげるから、お兄ちゃんたちのところへ行っておいで」
ハルトは風呂の番を請け負い、ノエルをアーサーたちのところへ合流させた。
こうして、ハルトたち一行はカレンの家事の手伝いをするのであった。




