大所帯カレン一家
「ただいまー」
先に帰宅したカレンは挨拶をした。どうやら家には彼女以外の家族がいるようである。
「おかえりー!」
「おかえりなさーい!」
ハルトたちがカレン宅に上がり込むと、小さな影がわらわらとカレンを迎えに来ていたのが見えた。彼らは皆カレンの弟、妹たちであった。
「今日はお客さん来てるから。ほら、みんな挨拶しー」
カレンは弟たちに挨拶を促すとハルトたちの前にずらりと並んだ。カレン一家は弟、弟、妹の三人を含めた四人姉弟だったのである。
「紹介するねー。上から順に、アーサー、ロレント、ノエル」
「こんにちは!」
「初めまして!」
「こんにちはー!」
カレンの弟たちは順番にハルトたち一行に挨拶をした。そういった社会的教育はしっかりと行き届いているようであった。
一番上の弟のアーサーはハルトと同じぐらい、ロレントとノエルはそれ未満の背丈であった。
「ねえお姉ちゃん!お腹すいたー!」
カレン姉弟の長男アーサーがカレンに夕食の催促を仕掛けてきた。彼ら姉弟は皆育ち盛りである。
「はいはい。今からご飯作るから大人しく待ってなー」
「あ、あの……私もお手伝い……します」
夕食の支度に入ろうとしたカレンにアリアが手伝いを申し出た。彼女にとっては寝床を提供してもらう謝礼代わりのつもりであった。
「本当?じゃあ手伝ってもらおうかなー。ハルトちゃんとループスさんはその間アーサーたちを見てあげてくれない?」
カレンはハルトたちにそう言い残すと夕食を用意すべくアリアと共に台所へと向かっていった。独特な言葉遣いや立ち回りこそあれど、家では弟、妹思いの姉であった。
「アリアちゃんは料理できるん?」
「はい……前はお金持ちの家で料理を作ってました」
「へぇー!まだ若いのにすごいじゃん!?」
カレンはアリアの経歴に驚かされた。だがアリアは『奴隷として雇われていたから』とは言い出しづらかった。
「あ、その野菜は皮をむいてから一度湯がくと辛みが消えて食べやすくなる……と、思います」
「マジ!?アリアちゃん物知りー」
カレンの調理を見たアリアはアドバイスを入れた。姉弟の中でまともに料理を作れるのはカレンだけではあるものの、その調理方法はアリアから見るとどこか拙いところがあった。
「カレンさんには、お父さんやお母さんは……いないんですか?」
アリアは素朴な疑問をカレンに投げかけた。ここまでカレンの両親の姿を一度も見ていない。家にいるような気配すら全くないのが不思議でならなかったのである。
「お父さんとお母さんはいるけど遠くに出稼ぎ中でさ。仕送りはちゃんとしてくれてるけどそれでも足りないから、こうして私が冒険者やってお金稼ぎながらお母さん変わりしてるってワケ」
カレンの両親は四人の子供たちを養うために少しでも多くの収入を得ようと出稼ぎに行っていた。数年前から出稼ぎに行ったきり帰ってきておらず、カレンはその間姉弟の長女として弟たちの面倒を見続けている。
「大変そうですね」
「そりゃあ大変よ。でも私以外に弟たちの親代わりになれる人がいないからやるしかないんよね」
カレンは身を切り詰めていた。足りない稼ぎを補うために冒険者稼業を始め、家事を始めたのもつい最近のことである。いつまでこの生活が続くかはわからない、下手すれば末っ子のノエルが働けるようになるまでずっとこのままかもしれない。カレンの自由などほとんどないにも等しかったがそれでもやるしかなかった。
「あの……辛いこと聞いちゃったみたいでごめんなさい」
「気にしないでよ。私も現状はちゃんと受け入れてるからさ」
アリアが暗い話をさせてしまったことを謝るのに対してカレンは割り切ったように答えた。
その日、カレン宅の台所にてアリアは少しだけカレンと打ち解けられた気がしたのであった。




