幕間:アリアの技能
今回は第十二章の物語の本筋とは関係ない幕間の話になります。
ハルトとループスの旅の仲間にアリアが加わって数日。アリアは奴隷として主人が転々としていた頃に培われた技術を揮っていた。
「きょ、今日は……私がご飯作ります……!」
その日のアリアは料理番を申し出た。ハルトとループスの旅の道中での食事は街で買い溜めした携帯食をそのまま、あるいは火にかけただけのものばかりである。悪く言えば粗末極まりないものであり、アリアにとって見過ごせる問題ではなかった。
「えっ?」
「アリアが料理するのか?」
「やります……私、前に雇われてたところでは……料理、作ってましたから」
ハルトとループスが呆気にとられながら尋ねるとアリアは普段より多少自信ありげにそう言い放った。彼女はハルトとループスが主人になる前は短い間だが食事を作る役を任されていた経験があり、手の込んだものでなければ料理をすることが可能であった。
ハルトとループスは料理経験が皆無にも等しかった。二人は焼く、煮込むのどちらかしかできず、炊事に対する向上心というものがまるでない。自分たちが食べているそれがいい食事とは思わずとも粗食だとも思っていないほどであった。
「材料と食器があれば……できます。今持ってるものを見せてほしいです」
アリアは食い気味にハルトとループスに迫った。オドオドしつつも気迫を見せるアリアに気圧されたハルトとループスは所持している食料をすべてアリアの前に出した。出された食料はどれもそのまま火を通すだけで食べられるようなものばかりであり、調味料などはろくに所持していない。
「はぁ……これで身体を壊さないのが不思議なぐらい……です」
「ほ、ほら。俺たちちょっと特殊だからこれでも平気っていうの?あはは……」
「ダメです。お二人が平気でも……私は違いますから……」
アリアは二人の食事事情の惨状に思わずため息をついてあきれ返るほかなかった。
「これなら……きっといけます」
しかしアリアはめげなかった。自らやるといった以上引き下がることはせず、今あるものを使って作れる料理を見出していた。
「ほ、包丁はないんですか……?」
「悪いがこれぐらいしかない」
アリアが調理器具として包丁を要求すると、ループスから渡されたのは動物の皮をはぐときに使う超大振りの出刃包丁であった。調理用としては明らかに過剰な大きさである。
「や、やります……」
メニューを考え付いたアリアは料理を始めた。料理経験があるというのは伊達ではなく、手際よく進む調理によって携帯食が全く新しい何かへと変化していく。ハルトとループスは料理に臨むアリアの姿を後ろからまじまじと眺めていた。
そして調理開始から十数分後、アリアは作り上げた料理をハルトとループスに差し出した。
「できました……味見もちゃんとしたので、ちゃんと食べられる……と、思います」
携帯食が別物に変わったことがハルトとループスには信じられなかった。それでいて『普通の人間』であるアリアから食べられる味であるという保証もされている。
ハルトとループスはアリアが作った料理に手を付けた。
「ど、どうですか……?調味料がなかったので素材の味しか出せませんでしたが……」
「おぉ!いいなこれ!」
「どうして俺たちはもっと早くアリアの能力に気づけなかったんだろうか」
ハルトとループスは旅の道中で温かく、すんなりと喉を通る食事がとれることにいたく感動した。これでもう熱を通しただけの簡素な食事とはおさらばである。二人はもうアリアがいない旅のことなど考えられなくなってしまった。
「ちょ、調味料を貰えれば、もっといろんな味のものを作れる……と、思います」
「買う。今度街に入ったら絶対に買うわ」
「これからも俺たちの料理番をお願いします。アリア様」
こうしてアリアは旅の仲間としての立ち位置と存在意義を確立したのであった。
今回で第十二章は完結になります。
次回からは第十三章を開始予定です。




