三人で行く旅路
「ハルトさんは何をしてるんですか……?」
「ん。機械いじってるの」
「き、機械?」
旅の道中の夜。ゴーグルを装備して足元に機材を広げ、作業に没頭するハルトの姿を珍しがってアリアが声をかけるとハルトは振り返らずにそっけなく答えた。
馴染みのない単語を聞いたアリアは首を傾げた。彼女はハルトが機械いじりを趣味にしていることどころか、機械という存在そのものを知らなかったのである。
「そう。魔法を使わなくても勝手に動いてくれる便利な道具……にいずれはなるものだ」
ハルトは工具を手にしながら機械について語った。最後の一言を足したのは魔力以外の動力源を使えるようにする技術とエネルギーに関する知識が今のハルトにはないからである。
「へぇ……面白そうですね」
「アリアも興味持ってくれるか?」
アリアのわからないなりの相槌を好奇心と解釈したハルトはアリアの自分の趣味の世界に引き込もうと試みた。だが声をかけたところでループスが早々にアリアを回収していき不発に終わったのであった。
「アレをやってるときのハルトには声をかけない方がいい。たいてい理解できんからな」
「そ、そうなんですか……?」
ループスは呆れたようにアリアにそう語る。ハルトの趣味の機械いじりは専門的な知識が必要になるため、そういった分野に疎い者には到底理解できるものではなかった。それはハルトの趣味を初めて知ったその時から変わらない。一時期はループスも多少なりとも理解を示せるように努めたこともあったが情報量の暴力に呑まれてやはり理解不能であった。
「でも、楽しそうですね」
「まあな。くだらないものを作ることもあるが、アイツが作った機械に助けられたこともある」
アリアの目にはハルトが心の底から楽しんでいるように見えた。
ハルトの機械いじりのアイデアは基本的にその場の思いつきである。第三者視点で見れば用途がまったくわからないような無用の長物を作ることもあるが、中には旅の助けになったものもいくつかある。ハルトが自衛手段として携行している銃や火を使わずに熱を発生させられるストーブなどがいい例であった。
「暇つぶしに魔法の授業でもするか。まずはこの前のおさらいからだ」
「は、はい。お願いします」
暇を持て余していたループスはアリアに魔法のことを教えはじめた。魔法のことをアリアに教えると言い出したのはハルトだが当の本人は他ごとをしていることが多く、あまり自分が教え役になることはない。専らループスの役割になっていた。とはいうものの、ループスもそんな役回りに満更でもなかった。
これまで二人だったハルトとループスの間にアリアという新しい花が添えられた。生まれも育ちも境遇もまったく異なる三人はそれぞれを頼り頼られながらこれからも同じ旅路を行くのであった。
次回、幕間の話を一本挟んで第十二章は完結となります。




