クオーツにて
旅をすることほんの二日、ハルトたち一行は寂れた小さな村へとやって来た。奴隷商からの情報が正しければここがアリアの生まれ故郷クオーツである。
村へと足を踏み入れたハルトたちは早速アリアの過去に関する手がかりを探し始めた。
「しっかし本当に静かなところだな」
ハルトは周囲の音を探りながら村を散策し、誰に向けたわけでもない独り言をつぶやいた。彼女の聴覚をもってしてもあまり人の話し声が聞こえないぐらいにこの村は寂れていたのである。
「あったぞ。ここが焼け落ちた建物の跡だろう」
ループスは話に聞いていたもの思わしき場所を発見した。ハルトがそこへ駆けつけると、確かに真っ黒な焦土に覆われた地が広がっていた。焼け落ちてからかなりの時間が経っているものと思われたが、消し炭になった地面は未だに風化することなく真っ黒なままである。
「ひどいもんだろう」
どこからともなく通りかかった一人の老婆がハルトたちに声をかけてきた。見知らぬ顔であるハルトとループスが焼け跡をじっと眺めているのを不思議に思って近づいてきたのである。
現地の人間と接触する機会を得たハルトたちは老婆に話を聞くことにした。
「ここって元々何があったんだ?」
「魔法使いの工房だよ。奴らは禁忌に触れて工房ごと焼かれたのさ」
クオーツという村にはかつて魔法使いがいたことが老婆の口から語られた。どうやら彼らは研究者だったらしく、その研究中に何かが起こって焼けてしまったようである。
そんな老婆の言葉の中でハルトは引っかかることがあった。
「工房と家は別々にあったのか?」
「ああ、気になるなら案内してやろう」
ハルトの推測通り、かつてこの村に存在していたという魔法使いは家と工房を別々に持っていた。老婆は物好きな輩が現れたと思いつつもハルトとループス、そしてアリアを魔法使いの家へと案内していった。
「ここが魔法使いの家さ。中にあるものはそのままにしてあるから好きに見ていくといい」
「そのままにって……誰も手を付けなかったのか?」
「こんなところ、気味が悪くて誰も手を出せやしないさ」
老婆はそう言うとハルトたちに背を向け、ぶつぶつと何かを呟きながら去っていった。どうも様子がおかしいと思いながらハルトたちは魔法使いの家を覗き込んだ。
「お邪魔しまーす……」
ハルトたちが魔法使いの家を覗き込んで最初に目にしたものは大量の風化した紙の山であった。まるで足の踏み場すら与えないほどに散乱しており、家というにはあまりにも異質な景色を作り上げていた。ハルトはその中の一枚を拾い上げ、その内容の解読を試みた。
「これは……」
「何かの記録だな」
ハルトとループスは記された内容の一部からそれが何かを記録したものであると推測した。その内容を暴くため、ハルト、ループス、アリアは三人がかりで家中に散らばった紙をかき集めた。数十分にもわたる収集の末、家中の紙を寄せ集めた三人はその全容を読み解くことにした。
『娘の成長記録』
記録の見出しには消えかけそうな文字でそう記されていた。魔法使いたちには娘がいたようである。
『ついに我が家にも子供ができた。我が子は少しばかり物静かな女の子、産んでくれた妻も無事でいてくれて何よりだ。我々は娘にアリアと名づけることにした』
手記は冒頭からいきなり衝撃的な内容が記されていた。内容に偽りがなければアリアはこの家の子ということになる。つまり彼女もまた魔法使いだということであった。
「私が……この家の子供?」
内容に最も衝撃を受けたのはアリア自身であった。それと同時にこれを読み進めていけば失われた自分の記憶を取り戻せるかもしれないと思いを馳せ、次の一枚に手を伸ばすのであった。




