クオーツに向かう中で
翌朝、ハルトたち一行はアリアの故郷クオーツに向かうために街を出発した。奴隷商人からクオーツへの行き方も聞いており、数日程度でたどり着けるとのことで旅もそう長くはならない見込みであった。
街を出てクオーツに向かう道中、ハルトはアリアの様子が少し変わったことに気が付いた。彼女は道中ずっとループスにくっついて離れないのである。元々アリアが最も心を開いているのはハルトではなくループスである。だがそれを考慮しても明らかに距離が近かった。
「お前らそんなに仲良かったっけ」
「まぁな」
ハルトの問いにループスはまんざらでもない様子で答えた。彼女は元々グループのボス気質が強く、アリアという子分格が自分にできたことを喜んでいた。対するアリアもループスという心の拠り所を得たことで気が楽になった。
ハルトは自分が蚊帳の外にされているような気がしつつも、アリアが心を開いてくれるならそれはそれでいいかと割り切って旅をする。
そんな旅の道中、ハルトたち一行はとある旅人と出会った。彼はハルトたちとは逆にこれからさっきまで滞在していた街へと向かっているようであった。
「へぇー。クオーツに行くの」
「知ってるのか?」
「ここに来る前に通りかかったよ。これから行くっていうところに悪いけど、あそこは寂れて静かな場所だったよ」
どうやら旅人はクオーツへの来訪歴があるようであり、彼曰くそこには何もないとのことであった。さらに建物らしきものが焼け落ちたまま放置されているという情報も得ることができた。
「ところで君たちはどうしてクオーツに?」
「この子の生まれ故郷らしいからちょっと行ってみようと思ってな」
「へぇー」
ハルトは話の流れでさらりとアリアを紹介した。アリアはループスの後ろに隠れながら旅人の様子を伺っている。ハルトとループスには心を開いているものの、それ以外の人間に対しては強い警戒心が残ったままであった。
「良い旅を」
「そっちこそ」
旅人同士の挨拶を終えたハルトたちと旅人は互いに反対方向へと進みだした。アリアは旅人の後姿を警戒するようにじっと眺めていた。
「なあアリア」
「なんですか?」
「もしお前の背中にある紋章が記憶を失ったことと何か関係があるとしたらどうする」
ループスから放たれた唐突な疑問にアリアは表情を凍らせた。彼女はそんなことは今まで考えたこともなかった。
「どうして……そう思うんですか?」
「根拠はない。でも、そんな気がしたから」
ループスは口を濁したものの、彼女にはそう考えるだけの根拠はちゃんと持っていた。それはアリアが過去二度に渡って焼け後の中から見つかっていることである。いずれもアリアは無事な状態で見つかっており、彼女が何らかの行動を起こしたとしか考えられなかった。しかしアリアは当時のことを覚えておらず、その主張に偽りがあるとも考えにくい。となると彼女の背中にある紋章がいずれの事件に関係していると考えることができたのである。
「まあまあ。気楽に行こうぜ、気楽にさ」
どこか気まずい空気が流れようとしているループスとアリアの間をハルトが取り持った。実のところ、ハルトもアリアの背中の紋章に何かがあるのではないかと疑っていたがあえて何も言わなかったのである。
こうして、旅を進めながらハルトとループスはアリアに秘められた謎の革新へと迫っていくのであった。




