森を抜けたら
歩き続けること数時間、日が暮れようという頃にハルトたちはようやく木々が生い茂る森を抜け、そう遠くない場所に街が見えるようになった。
「ループス、アリアを抱えられるか?」
「それぐらいなら問題ない」
ハルトが確認を取るとループスはアリアを両腕で抱え上げた。アリアの足は地面を離れて浮き上がる。
「何をするんですか?」
「街まで走る。しっかり捕まっておけ」
行動の意図がわからないアリアに対してループスは目的を説明しつつ警告を発した。現在の距離なら全力疾走すれば日が完全に沈む前に街に入ることができるはずであった。しかしそんなことをすればアリアは完全に置いていかれてしまう。よって力が強いループスがアリアを抱えていくという算段であった。
ハルトとループスなら本当にやってのけるだろうと確信したアリアは信頼を寄せてループスの首と脇に襷をかけるように腕を回して服の裾を掴んだ。
「よっしゃ行くぞ!」
ハルトの合図と同時にハルトとループスは視線の先にある街を目指して走り始めた。身軽なハルトが先行し、ループスがその後ろを追いかける形で平地を走り抜ける。
アリアは今まで体験したことのない速度で自分の身体が進んでいくのに圧倒されてループスの腕の中で目を閉じながら動きが止まるのを待った。
疾走することほんの十数分でハルトたちの足を動きは徐々にゆっくりになっていった。彼女たちが息を切らすほどに疲弊したのもあるが、そもそも彼女たちはすでに街に足を踏み入れていた。
ループスはアリアを地上に降ろすと膝をついて大きく息を切らした。
「あ、ありがとうございます……」
「どうということはない。お前を置いていかないようにしただけのことだからな」
気遣いと労いの言葉をかけるアリアに対してループスは息を切らしながら気丈に振舞った。
「ハァ……ハァ……なんとか街に着けたか……」
ハルトたちは森を抜けて初めて街へとたどり着いた。少し経って呼吸を整えたハルトとループスは拠点とする宿を求め、アリアを連れて街を歩きだした。
街を歩くハルトたちは人々の注目の的であった。獣の耳と尻尾がついたハルトとループスの二人はもちろんのこと、明らかに丈があっていないぶかぶかの服を着たアリアも同時に目立っていた。視線慣れしている二人はともかく、アリアは視線に晒されて委縮してしまっていた。
「なんかすごく見られてます……」
「あー、俺たちと一緒にいるってそういうことだからな」
ハルトは今更思い出したようにアリアに説明した。森の中ではほかに人がいなかったために説明の機会がなかったが街の中に入れば人の目に晒されるのは必然であった。
そんなこんなをしている内にハルトたちは一夜を明かすための宿へとありついた。ハルトとループスはあわよくばこの宿をこの街における活動拠点にするつもりであった。
「明日はとりあえずアリアの服を買わないとな」
その夜、ハルトとループスはアリアの世話を焼くことを約束したのであった。




