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ケモミミTS魔法少女は何を見る~俺は天才だ!~  作者: 火蛍
12章 黒翼の紋章
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黒翼の紋章

 ハルトとループスがアリアを保護した翌日の朝、ハルトは寝覚めと共に自分の尻尾に何かがのしかかっていることに気がついた。ループスかと思い、振り払おうと身体を捻って視線を変えるとそこには尻尾を抱えて眠るアリアの姿があった。どうやら少しでも暖を求めて夜な夜な無意識のうちにハルトの尻尾にありついたようである。ハルトが真っ先に疑ったループスはというと珍しく一人でハルトに背を向けるような姿勢で眠っていた。


 ハルトは尻尾からアリアの手を払いのけ、日課の寝癖直しを始めた。アリアがかなり早い段階から抱き着いていたからか、普段ほどの寝癖はついていないが逆に毛並みがアリアの手の形に沈んでいた。

 アリアの寝相を見ていたハルトはとあることを発見した。アリアは出会ったときからボロ布で頑なに背中を隠しているのである。起きているときはもちろんのこと、眠っている時まで絶対にはだけさせないほどの徹底ぶりであった。

 ハルトは彼女の背中に隠されたものに興味を持った。寝癖を直す手を止めてアリアに近寄り、頑なに離そうとしないボロ布を持ち上げて隙間から彼女の背中を覗き見た。


 「……ッ!?」


 ハルトはアリアの背中にあったものを見て驚愕のあまりに言葉を失った。彼女は背中一帯を覆いつくさんばかりに真っ黒な翼のような形状の紋章が刻み込まれていたのである。それが奴隷の証として刻まれる印でないことは一目瞭然であった。むしろこの紋章があまりにも大きすぎるせいで奴隷の印を後付けすることができなかったのである。


 紋章を覗き見たハルトの背筋におぞましい寒気が走った。まるで紋章にこちらが逆に見られているような、紋章そのものがアリアとはかけ離れた意思を持っているような、そんな気がしたのである。見続けたら自分が食われるような気さえ感じさせた。


 (もしかしてあれにアリアの秘密が隠されてるのか?)


 アリアに気づかれぬように布切れをそっと元の状態に戻したハルトは彼女が過去の記憶を失っている理由、それは彼女の背中にある黒翼の紋章にあるのではないかと勘繰った。それがどこでどうやって刻まれたものなのか、そこに彼女の謎があるのではないかとも考えられた。


 ハルトが寝癖直しと身支度を済ませたころ、彼女に遅れてアリアとループスが目を覚ました。彼女たちがそれぞれの身支度を進めているところへハルトは旅の方針を語った。


 「アリア、俺はお前のことを捨てた奴隷商人のところへ行ってみたいと思ってるんだ」

 

 ハルトから行き先を知らされたアリアの顔から血の気が引いた。奴隷商人は現在のアリアの人格を作り上げた張本人であり、アリアにとっては顔を見ることすら恐ろしい相手であった。

 だがそんなことは百も承知でハルトには奴隷商に接触したい理由があった。


 「もちろんアリアにとっては会いたくない相手だっていうのはわかってる。でも、奴隷商ならアリアの過去を知ってると思うんだ。どこで出会ったのか、それまで何をしていたのかとかさ」


 アリアの過去を知っている可能性が最も高い人物こそ、彼女を奴隷の身に落とした奴隷商であった。そんな彼こそがアリアの謎に近づくための最重要人物だともいえた。


 「わ、わかりました……それなら、私も行きます……」


 過去を知りたいのはアリアも同じである。むしろ自分のことである分ハルトたちよりも強い執着を抱いていた。アリアは恐怖の感情を押し殺して奴隷商に顔を合せることを決意した。

 

 「そのためにまず森を抜けて最寄りの街に行かないとな。アリアにずっとそんな恰好させるわけにもいかないし」


 アリアは相変わらずボロ布一枚の状態であり、ほぼ全裸も同然である。ハルトはアリアの身なりを最低限整えてやりたかった。


 「しばらくはとりあえず俺の服を着てもらうか。丈は合わないがやむを得ん」


 ループスはそう言うと自分の衣服を何着かアリアに貸し出した。アリアはループスと比べると一回りほど背丈が低く、服のサイズは不相応である。かとってハルトの服は小さくてそもそも着られない、消去法での選択であった。


 「ど、どうでしょうか……」

 「布切れだけよりずっとマシになったぞ。靴も貸してやろう。裸足で森を歩くのは大変だろうからな」


 ループスの衣服を借りたアリアの身なりはずっとマシになり、人前に出ても問題ないぐらいには改善された。

 こうしてとりあえずの問題を解決したハルトたちは最寄りの街を目指して森を抜けることにした。


 「そういえばループスの家は奴隷を使わなかったのか?」

 「使っていない。ウォルフェアでは奴隷の取引と使用は禁止されているからな」


 道中、ハルトからの何気ない疑問にループスは答えた。彼女の故郷ウォルフェアは歴史的に数多の外敵に囲まれている軍事国家である。外部侵略への対応で手いっぱいになりがちなところへもし奴隷たちに反乱など起こされようものならひとたまりもない。それを未然に防ぐために奴隷を使用すること、奴隷になることを禁じているのである。


 「あの……お二方はどういった関係なんですか?」

 「パートナー……かな。あ、そういう意味じゃないからな」


 アリアは出会ったときから自分に対して何かとよくしてくれるハルトとループスに対して徐々に心を開きつつあり、二人のことを知ろうと自ら歩みを寄せてきた。何かと受け身がちだったアリアが能動的に動いてくれたのは二人にとっては喜ばしかった。



 ハルトとループス、そしてアリアを加えた三人は最寄りの街を目指して森の中を進む。こうしてアリアの過去、ひいては彼女の背中に刻まれた黒翼の紋章の秘密を解き明かす旅が始まったのであった。

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