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トロフィー泥棒

 「はぁ~美味かったなぁ」

 「あそこを選んでよかっただろう」


 優良な外食でハルトたちアイム一家はすっかりご機嫌になっていた。そんな浮かれ気分そのままに工房へと戻ったとき、ハルトとレオナはとある異変に気が付いた。


 「ここに置いてたトロフィー、どこにいった?」

 「確か、ここに置いたはずなんだけど……」

 

 コンテストで勝ち取ったトロフィーが見当たらなかったのである。一瞬置き場を変えた可能性を考えたがハルトが両手で抱えるほどの大きさのものであるが故、多少位置を変えたとてかなる目立つはずであった。

 アイム一家は最悪の可能性が脳裏に過った。


 「盗まれた!?」

 

 ほんの数時間工房を留守にしていただけで誰かがトロフィーを持ち出していったのとしか考えられなかった。まさかまさかの工房を狙った空き巣である。

 その瞬間、ハルトたち一家に執念の炎が灯った。


 「ループス、トロフィーの匂いを辿れるか」


 奪還に燃えるハルトがループスに指示すると、ループスは周囲の匂いを探り始めた。トロフィーはしばらくハルトたちが抱えていたがためにアイム一家の匂いが付いており、その残り香を辿れることができれば泥棒たちの追跡が可能であった。


 「あっちだ」


 トロフィーの残り香を嗅ぎつけたループスはそれを辿って外へと飛び出していった。ハルトもすぐにその後を追う。

 レオナとセシルもすぐに追いかけようとしたが常人をはるかに凌駕するループスとハルトの足取りを生身で追いかけることは叶わず、二人は工房に戻って我が子たちの帰りを待つことにしたのであった。


 

 「へっ。あの人形師たちも不用心だな」

 「まさかトロフィーを二つも持ってるなんてよ」

 

 夜、アイム一家からトロフィーを盗み出した泥棒二人組はトロフィーを売り飛ばすためにマスカールの街を離れようとしていた。彼らは昼間からハルトたちとレオナたちをそれぞれ付け回しており、留守にするタイミングをうかがっていたのである。


 泥棒たちがあとは街を抜け出して遠方へと逃げるのみとなっていたその時、マスカールの街中に獣の遠吠えが響いた。この街では動物を飼う人は対して珍しくはない。しかしそのほとんどは小動物であり、ここまで大きな遠吠えを響かせる動物を飼うものなどいなかった。

 

 泥棒たちが遠吠えに耳を傾けた矢先、小さな影が泥棒たちの前に躍り出た。それはトロフィーの奪還に燃えるハルトであった。


 「お前たちだな。俺のトロフィーを盗んだのは」

 「さあ、なんのことかな?」


 いきなりケンカ腰のハルトに対して泥棒たちはシラを切ろうとした。しかしそれも束の間、もう一つの大きな影が泥棒たちの背後から迫り、そのうちの一人の肩を掴んだ。


 「その中身を見せてみろ」 


 もう一つの影ことループスは威圧するような低い声で鎌をかけた。並々ならぬ気迫に押され、泥棒たちは手にしていた大袋の中身をループスに見せた。すると中にはあのトロフィーもあった。トロフィーにはハルトとレオナの名がそれぞれ刻まれており、紛れもない本物だった。

 

 「返してもらうぞ」


 ハルトがトロフィーを奪還しようと手を近づいた時、泥棒の一人がその手をぶっきらぼうに払いのけてハルトを突き飛ばした。

 

 「痛ってぇ……!」


 予想外の反撃にハルトは尻もちをつくが、即座に泥棒たちを睨み返した。彼女は今の自分と大人の男とでは明確に力の差があることを思い出さずにはいられない。


 「大人の男をなめんな……ッ!?」


 泥棒の一人が悪態づいた矢先にループスがその肩を掴み、強引に振り向かせると同時にその頬を殴り飛ばした。ループスの腕力で殴られた男の身体は宙を舞い、一回転して地面に叩きつけられる。


 「生身の人間ごときが獣に勝てると思うなよ」


 ループスは血走った眼を輝かせ、腰に携えている剣に手をかけた。彼女はハルトが攻撃されたことに激しく憤慨しており、泥棒たちを徹底的に痛めつけることには何のためらいもなかった。


 「トロフィーを返すか、ここで消し済みになるか。お前たちにそれを選ぶ権利をくれてやる」


 ループスは電撃魔法を発動させて泥棒たちの逃げ足を奪うと、その首に剣の刀身を押し当てた。魔法石でできた刀身ははじめは冷たかったものの、ループスが魔力を注いでいくにつれて徐々にその刀身を輝かせて熱を帯びていく。時間が経てば次第に剣の熱が皮膚を焼き焦がし、やがて肉体を真っ二つにされることを泥棒たちはすぐに理解した。


 「あ……あ……あが……ッ!」


 泥棒たちは己の身を焼かれる恐怖から必死に命乞いをするが電撃魔法の直撃を受けたせいで全身が麻痺しており、言葉にならない声を発して足掻くことしかできない。


 「なんて言ってるかわからないな。もっとはっきり言ってくれ」


 恐怖に飲まれる泥棒たちを蔑むようにループスは言い放つ。彼女の腹の虫はまだ収まることを知らない。ハルトはそんなループスの所業を見て思わずドン引きさせられた。


 「その辺にしとけ。流石に可哀そうになってきた」


 ハルトは泥棒たちを一方的にいたぶるループスに制止をかけた。今のループスに制御をかけられるのはそのパートナーであるハルトだけであった。 

 ループスはハルトの頼み通りに剣に込めた魔力を解除し、その刀身を鞘に納めた。


 

 「それはそれとして、アンタたちにはうちの工房に来てもらうぞ。母さんが顔を見たがってる」


 泥棒たちの一命をとりとめさせたハルトはそう告げた。ループスは身体が麻痺して動かない泥棒たち二人を担ぎ上げるともと来た道をたどってレオナの工房へと戻っていくのであった。

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