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人形師の頂点

 ハルトたちが仮装コンテストに出ている頃、時を同じくしてレオナとセシルは人形コンテストの結果を見に行っていた。作品の展示は昨日だったがコンテストの結果発表は今日だったのである。

 レオナは会場に足を踏み入れ、入賞した作品の数々を見ていく。優秀な成績を収めた作品ほど奥に展示されるようになっているが、彼女はまだ自分の作品を目にしていない。


 自分の作品が上位に入賞したことを確信したレオナはもしかすればコンテストで優勝しているかもしれないと予想して期待に胸を膨らませた。マスカールのコンテストで優勝するということはそれ即ち世界の人形師の頂点に立つのと同義である。レオナはその称号を得られる可能性に目をぎらつかせた。


 会場の中を進み、レオナとセシルはついに最奥部へとやって来た。そこには最優秀作品と優秀作品が同時に並んでいる。ここまでの道中にはレオナとユリエスの作品は展示されていない。つまり二人の内のどちらかが最優秀賞である。

 レオナとセシルは緊張で息を飲んだ。そして意を決して最奥部へと足を進め、最優秀賞を獲得した作品を確認しに行った。


 「……!?」


 レオナは衝撃で声が出なかった。最優秀賞を獲得した作品、それはレオナのものだったのである。

 自信の作品がマスカール一の人形師であるユリエスの作品と並び、そしてそれを超える評価を得たという事実が信じられなかった。

 

 「おめでとう、レオナ」


 セシルに方を叩かれ、祝いの言葉を贈られたことでレオナはようやく目の前の光景が夢幻でないことを自覚した。喜びの感情が爆発し、セシルを抱き寄せて熱い抱擁を交わす。


 「私本当にやったのね!?」

 「うんうん。ここまでよく頑張ったね」


 レオナとセシルは優勝という栄誉を掴んだ喜びを分かち合った。レオナの人形製作に最も携わってきたのは他の誰でもないセシルである。レオナの苦労はセシルの苦労でもあり、レオナの喜びもまたセシルの喜びであった。


 「おめでとうございます。素晴らしい作品でした」


 そんな二人の様子を見ていたのか、どこからともなく現れたユリエスがレオナの賛辞の言葉を贈った。彼は自分の作品がレオナの作品と比べて何が足りなかったのかをすでに分析済みであった。

 

 「やはり『積んできた経験の差』なんですかね」


 ユリエスの作品では表現できなかったもの、それは『作者自身の人生経験』に他ならなかった。彼は人形を通して良くも悪くも『人形師としての在り様』しか表現できないのに対し、レオナの作品は『魔法使い』『人形師』『母親』『妻』など様々な視点から表現されていた。見る人が見ればわかる様々な要素の集合にユリエスは敗れたのである。

 純粋な技術だけならユリエスの方が上のはずである。しかしそれを差し引いて有り余るものがレオナの作品にはあった。


 「レオナさん。コンテストの主催がトロフィーを用意してあなたを待っていますよ」

 

 ユリエスはそう言いながらレオナにアイコンタクトを送った。彼の視線の先には大きなトロフィーを携えた主催と思わしき老人がニコニコしながらレオナのことを待っていた。



 その日、レオナはセシルと共にトロフィーを受け取り、史上初の女性人形師のコンテスト優勝という伝説をマスカールの地に残したのであった。

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