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あざといパフォーマンス

 仮装コンテストに強引に参加させられ、気が付けばハルトは壇上へと登らされていた。彼女はここまで極度の緊張で頭が真っ白になっており、まったく記憶がない。

 そんなハルトの様子をループスは遠目に見守っていた。


 「ではここで参加している子たちに軽く自己紹介をしてもらいましょう!」


 コンテストの司会を務める女性が参加者の子供たちに喋らせる企画を進め始めた。だがそんなこともいざ知らず、ハルトは完全に上がってしまっていた。


 「すまない。少し前を通らせてくれ」


 このままではまずいと感じたループスはハルトの視界に自分の姿が映るように他の観客たちを押しのけて前へ前へと足を進めた。ごった返す人波をかき分け、ループスが最前列までたどり着いたときにはすでにハルトの番が回ってきていた。


 「お名前は?」

 「ハ、ハルト……ルナールブラン……でしゅ」


 極度の緊張でうまく舌が回っていないハルトは自己紹介の最後で台詞を噛んでしまった。上手く話せていないことに気づいたハルトは恥ずかしくなって耳を伏せる。いつもの強気で小生意気な態度はどこへやら、借りてきた猫どころか借りてきた狐と言わんばかりのその内気な姿にループスはただただ唖然とするばかりであった。


 「ハルトちゃんはどんなところが自慢かな?」

 「じ、自慢は……この耳と尻尾……」


 緊張で上がっていても自分のチャームポイントは忘れていなかったのか、ハルトは壇上で自分の耳と尻尾をアピールした。このコンテストでただ一人、ハルトだけが動物を模した姿をしていることもあって会場の観客たちは大いに盛り上がる。


 「ここにいるみんなに伝えたい事があればなにか一言」

 「遠くから参加しに来たから、みんなに可愛いって言ってもらえると嬉しい……かも。えへへ……」


 喋っている内に緊張が多少解れたのか、ハルトは照れながら観客たちに愛嬌を振りまいた。今更キャラを変えるよりこの場は内気なキャラで通した方がいいだろうと判断し、内気なように振舞う。

 ただでさえ外見で異彩を放っているハルトの庇護欲を掻き立てる小動物的な動きは観客たちに大うけし、会場はハルトを応援するものたちほぼ一色に染め上げられた。


 「ふへへ……嬉しいな」


 ハルトはわざとらしく照れた表情を作り、尻尾を大きく左右に振って甘えるような仕草を見せた。これが決め手となり、観客たちは次々とハルトを応援しはじめた。まだ他にパフォーマンスを残している子供たちはいたにも関わらず、ハルトの優勝は決まったも同然であった。


 コンテストの優勝者はもはや迷う余地すらない雰囲気でハルトに決定した。ハルトは再び壇上に上げられ、頭に小さなティアラを戴冠して優勝記念のトロフィーを受け取った。


 「優勝してどんな気持ち?」

 「すごく……すごく嬉しい……です!」


 ハルトの内気でありつつも喜びを表現したパフォーマンスに観客たちは熱狂した。コンテストの参加者であった他の子供たちもハルトの他の追随を許さないほどの振る舞いの徹底ぶりに感服し、称賛の拍手を送った。


 「なんで助けてくれなったんだよ!」


 パフォーマンスが終わり、壇上から戻って来たハルトは一目散にループスのところへと詰め寄った。彼女の顔は今にも爆発しそうなほどに真っ赤になっていた。


 「最初は俺も心配したけど、壇上のお前を見てたらあれはあれでいいかと思って」

 「よくねえよ!おかげでコンテスト中ずっとあれで通さないといけなかったんだからな!」

 「そんなこと俺に言われてもなぁ……」


 ループスは完全に返答に困ってしまった。もしハルトが緊張に飲まれていなかったとしても観客たちからの支持を得るためであれば彼女は自ずとそういう性格を演じるはずである。要するに結果論であった。


 

 「ところでさ」

 「なんだ?」

 「壇上でやったあれ。たまにでいいから俺の前でも……」

 「絶対にやらないからな!」


 ループスの言葉を遮ってハルトは強くそう断言するのであった。

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