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仮装コンテスト、当日

 人形祭二日目の朝、ハルトはいつにもなく緊張していた。今日は仮装コンテストが催される日である。

 そして会場の前でハルトは足を止めてしまっていた。極度の緊張で身体が固まってしまっていたのである。


 「今更緊張するか?今まで散々周りに見られてきてるのに」

 「わけが違うだろ。今回は自分からこの格好を見せびらかしに行くんだから」

 「昨日も同じようなことしただろ」


 緊張しているハルトにループスが冷静な指摘を入れた。昨日、大人たちからお菓子を集ったときもハルトは自分から姿を見せに赴いていた。それと今回とでなにがちがうのかループスにはさっぱりわからなかった。

 

 「あれは一対一だったから……」


 ハルトは一対一であざとく振舞うのは得意なものの、大人数を相手にするのに対しては苦手意識があった。そして仮装コンテストはまさしくその苦手なものであった。


 緊張のせいかハルトの耳が左右にクルクルと回っている。ループスにはそれがかなり目についたがハルト本人は完全に無自覚であった。

 せめて落ち着かせてやるべきだと考えたループスはおもむろにハルトの尻尾を掴み、ふかふかの冬毛の中に手を突っ込んだ。突然の行動に驚かされたハルトは慌てて自分の尻尾を手繰り寄せ、庇うように抱えながらループスを睨みつける。


 「ッ!?いきなり何するんだ!?」

 「こうすれば少しでも気がまぎれるかと思って」

 

 ハルトはループスの言葉に対して半信半疑であった。というのもループスは日常的になにかと大義名分をつけてハルトとのスキンシップを図ろうとしていたためである。だがループスは誠実でハルトに対して嘘をついたことがないのも事実であったため、ハルトはこれ以上咎めることはできなかった。


 「会場まで自分でいけないなら俺が連れて行くからな」


 ループスはそう言うとハルトの身体を抱えて方に担ぎ上げ、会場の中をズカズカと進みはじめた。ハルトの意思などお構いなしである。


 「おい、ちょっと待て!」

 「なんだ。まだ覚悟決めてないのか」

 「そうじゃなくて!このままだとパンツが見えちゃうんだって!」


 ハルトは丈の短いスカートを着用しており、その上で前傾のような姿勢で担がれているため非常に危なっかしい状態であった。尻尾をべったりと伏せてお尻と密着させることでスカートの中が見えることは防げているものの、このままの姿勢でい続けることはなんとしても避けたかった。


 「仮装コンテストに出る。今俺が担いでる子がな」


 ループスは担いでいるハルトのことを無視しながら仮装コンテストへの出場の受付を進めていった。あれよあれよという内に受付が完了し、気が付けばハルトの左胸には受付番号が書かれた札が付けられていた。

 

 「まあそういうことだ。あとは頑張れよ」


 ハルトをコンテストへ送り出す準備を終えたループスはハルトの肩を叩いた。


 「えっ……えっ……?」


 いつの間にか参加が決定事項となり、あとは舞台に登るのみとなったハルトは不安と緊張に駆られてものが言えなくなっていた。そんな彼女の姿をループスは何も言わずに首を縦に振って見守る。



 「せめて何か言えよぉ!」


 無言を貫いてくるループスに対するハルトの叫びが騒がしいコンテスト会場に響くのであった。

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