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ケモミミTS魔法少女は何を見る~俺は天才だ!~  作者: 火蛍
2章 子攫い女
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子供たちへ繋ぐ

 午後三時、一部の常連客のたちの協力もあってなんとかハルトは店内の清掃を終えた。しかし暴徒たちが押し寄せてきた余韻で客入りはゼロであった。気が付けば常連客たちも退散し、店内にはハルトとフィリアの二人だけになっていた。

 フィリア本人はさっき受けた精神的なダメージが堪えているのか、暗い表情が消えなかった。ハルトはどうにか彼女を励ましてやりたいと思った。


 「気に病むことはないって。おばさんは悪くないんだから」


 ハルトはできる限りの労りの言葉をかけた。今回の一件はフィリアに一切の非はない。町の大人たちの思い込みが起こした惨劇である。

 

 「ありがとう。おばさんのこと助けてくれて」

 「俺にはこういうことしかできないからさ。これで今までのお礼ってことにしてくれないか」


 ハルトはどうしても自分からフィリアにできる恩返しの方法が思いつかなかった。偶然の産物ではあったものの、こんな形でしか恩を返すことができなかった。

 

 「お礼をしようとしてくれたその気持ちだけで十分嬉しいわ。ありがとう」


 フィリアは謙虚な言葉を返した。彼女は自分の好意に見返りを求めるようなことなど考えてもいなかった。


 「ねえハルトちゃん。尻尾の毛がボサボサになっちゃってるわよ」

 「えっ?うわマジじゃん!」


 ハルトは自分の尻尾を見て初めて自分の毛が逆立っていたことに気が付いた。これではせっかく朝に直した寝癖が元通りになったようなものである。

 

 「それで外を出歩いてたの?」

 「いや。出たときはちゃんときれいにしてたんだけどなぁ」


 フィリアに言われてハルトは初めて感情の起伏で毛が逆立つ性質に気が付いた。ようやく馴染んできたと思っていた自分の身体にもまだまだ未知のことがあった。


 「おいで。直してあげる」

 「そうか……じゃあお言葉に甘えて」

 「まだお店の営業中だからここでやるね」

 「えっ」


 フィリアの言葉にハルトは度肝を抜かれた。自分の尻尾を触らせているところはできるだけ見せたくはなかった。店内で毛繕いをするということは町の人々に見られる可能性がかなり高くなることを意味していた。

 ハルトは大いに迷った。フィリアの毛繕いは非常に心地よい、それに自分でやるよりもきれいにやってくれる。しかしその姿を他人に見せたくはなかった。


 「やらないの?」

 「うぅ……た、頼む……」


 フィリアの困ったような寂しいような表情を見てハルトは折れた。フィリアから一番近い客席に腰を下ろし、彼女に背を向けて尻尾を差し出すように椅子から垂らした。


 「ハルトちゃんは優しいのね」

 「そうでもない。俺はただ親しい人が傷つけられるのが嫌だっただけだ」

 「人はそれを優しいっていうのよ」


 店内で毛繕いをしてもらいながらハルトとフィリアはやり取りを交わす。フィリアはハルトとの交流の中で彼女の本質をどことなく感じ取っていた。

 フィリアに諭されたハルトは彼女がそう言うのならきっとそうなのだろうと食い下がることなくそれを受け入れた。

 

 「こんにちはー!」

 「こんにちは!」


 ハルトは毛繕いを受けている最中、子供たちがお小遣いを握りしめて店を訪れた。その瞬間、ハルトは天敵に出くわしたかのように表情を強張らせた。

 子供たちは事あるごとにハルトの耳や尻尾を触ろうとする存在、しかもその尻尾をフィリアに触らせている最中での邂逅である。これまで何度もはぐらかして回避してきたが今度ばかりはそういうわけにもいかなさそうだった。


 「あーっ!おばさんお姉ちゃんの尻尾触ってる」

 「いいないいなー」

 「俺たちにも触らせてー」


 子供たちは真っ先にその光景に食らいついてきた。店の中の雰囲気など子供たちには関係のないことであり、陰惨な雰囲気から一転して賑やかな声が聞こえ始めた。

 そんな中でハルトはその先に待ち受けるイベントをなんとか回避しようと必死に思考を巡らせた。


 「お前たち今日はここに来ちゃダメって言われたんじゃなかったのか?」

 「そうだけど、お父さんたちが逃げるみたいに帰ってきてさ。やっぱり今日は行ってもいいぞって」

 

 図らずもハルトは子供たちがここに訪れるための口実を大人たちに取り付けていたのである。彼らの両親を追い払ったのが自分であることは言わないでおくことにした。

 

 「というわけでおばさん」

 「パンケーキ作ってください!」


 子供たちはテーブルの上にパンケーキ分の代金を次々に置いた。今の彼らにとってフィリアはどこか避けられていた存在から必要な存在へと昇華していた。フィリアの双眸からは無意識のうちに再び涙が伝い落ちていた。


 「よかったなおばさん。子供たちはおばさんの味方みたいだぞ」

 「みんなありがとう。おばさんみんなのために腕によりをかけて焼いてあげるね」

 

 フィリアはハンカチで涙を拭うとハルトの毛繕いを切り上げて厨房へと姿を消した。

 

 「あれ?俺の毛繕いは?」

 

 唐突に毛繕いを中断されたハルトは尻尾を大きく振ってフィリアにアピールをするものの、今の彼女にはハルトよりも子供たちの方が大事であった。


 「ごめんねハルトちゃん。あとは子供たちにやってもらって」


 ハルトが危惧していた最悪の未来はよりにもよってフィリアによって誘発された。フィリアにそう言われてしまった以上、ハルトは何も言い返せなかった。

 子供たちは念願叶ったりと言わんばかりにブラシを手に取って目を輝かせた。


 「ついにその尻尾に触れる時が来たな」

 「ずっとずっと楽しみにしてたんだから」

 「お、お手柔らかに……」


 ハルトは警戒心から耳を伏せた。ここから先はフィリアがパンケーキを焼き上げるまで耐え続けるのみであった。


 「ふにゃっ……!?」

 「すっげーふわふわだ」

 「ふかふかでずっと触ってたくなっちゃう」


 子供たちの毛繕いはフィリアに比べるとかなりくすぐったかった。それと同時にハルトは自分の尻尾の手触りが人々を病みつきにするほどの魅力があるものだと解した。


 「耳の方はどうなんだろう」

 「ふおおおおお……!」


 子供たちの中の一人がハルトの耳に触れた。するとハルトの耳はピンと立ち上がり、なぜか沸き起こる高揚感でハルトの口から声が漏れる。

 今の彼女は子供たちにとって格好の遊び道具であった。


 

 こうして、ハルトはフィリアと町の子供たちとをつなぐ架け橋となったのであった。

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