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静かな夜に

 人形祭一日目が終わった夜、アイム家が滞在している工房はとても静かであった。朝早くから一日中活動を続けていたセシルとレオナ、そしてハルトの保護者を務めあげていたループスがいつもよりも早く寝息を立てていたためである。

 明日は仮装コンテストの当日であり、人形コンテストの結果発表が出る日でもあった。そんな日を目前にしてハルトはどうにも眼が冴えて眠ることができなくなっていた。


 マスカールの夜は祭りがあと一日続くとは思えないほどに静まり返っていた。鮮やかな装飾が街に残されたわずかな灯りと月明かりに照らされて仄かに彩られているだけである。

 ハルトは工房の屋根の上から街並みだけがにぎやかな景色を眺めながら風情を感じていた。


 静かな夜景を眺めながらハルトは次の旅の行き先を考えた。マスカールを訪れてからというもの、気づけば人形祭のことばかりであり、そんなことを考える暇すらなかった。そもそもここに来る前からすでに行き先を特に決めずに適当な街を目指していたような有様である。


 (やっぱり行き先ぐらいは決めておいた方がいいのかな……?)


 ハルトは自分の旅に関して疑問を抱いていた。彼女の旅のきっかけは衝動的なものであり、行き当たりばったりであることが多い。最近は目的地までの距離が遠くなることも多々あり、事前計画なしでの旅にも限界を感じるようになってきていた。

 しかし地理情報などに疎い彼女には自力で次の行き先を見つけることができなかった。自分の持つ知識の偏りを痛感したハルトは肩を落とし、耳と尻尾を垂らして項垂れた。


 「暇つぶしに考え事か」


 聞きなれた声がハルトの背後からかかった。どうやらさっきまで寝ていたはずのループスが目を覚ましたようである。

 

 「まあな。人形祭が終わったら次の行き先どうしようかなーって」

 「別にどこでもいいだろう」 


 ループスは旅の行き先について悩んだことはない。というのも彼女はすでに旅の目的を果たしており、あとはハルトに付き従うのみとなっていたためである


 「俺もそう思ってるけどさ……」

 「なんだ。まだ何か言いたげだな」


 ハルトは次の旅は何か目的を持つべきではないかと考えていることをループスに伝えた。するとループスは呆れたようにため息をついた。


 「旅の目的何か細かく決めるもんじゃないぞ。絶対にうまくいかないし、そうなったときに幻滅することになる」


 ループスは持論をハルトに語った。彼女が旅の目的を果たせたのは『自分の親から独立する』という大雑把な目標を設定できていたのも大きい。もしこれがより具体的なものになっていればどこかで躓いて投げ出していたかもしれなかった。

 

 「そんなもんかな」

 「俺にもわからん。ただそんな気がするっていうだけ」


 

 静かな街を眺めながらハルトとループスは黄昏るのであった。

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