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レオナとマスカールの人形師と

 コンテストの最中、レオナはマスカールの人形師たちと交流を深めていた。レオナは人形師になった経緯や人形師としての実績、そして人形製作の技術など様々な情報を交換することができた。

 だがマスカールの人形師たちはレオナの人形製作の技術を知ることができてもそれを再現することはできなかった。彼女の人形製作の技術の中には魔法が組み込まれていたためである。


 「魔法使いなのに人形師になるなんて物好きもいるもんだな。魔法使いなら他のいい仕事にも就けるだろうに」

 「我々は魔法使いとはいっても凡才ですから。皆さんが想像するような仕事をする魔法使いなんてほんの一握りです」

 「その通り。それに私はこの仕事がいいと思ってやってますから」


 人形師たちは魔法使いに対して多少の偏見を持っており、魔法使いであれば誰もが高等な職業に着けるものだと考えていた。だがその認識は魔法使いそのものであるセシルたちからすれば誤った知識だというのが明白であった。

 実際に彼らは魔法使いであるものの、レオナが人形師としての仕事をするようになるまでは住んでいる町の人々の農作業を手伝うことで生計を成り立たせていたのである。セシルがそれを語るとマスカールの人形師たちは知らざる一面の発見に驚かされた。


 「魔法使いっていってもいろいろいるんだな」

 「僕らはちょっと変わってるんです。妻は魔法を実際に使うのは得意ですがその理論や理屈を考えるのは得意ではありませんし、僕自身も魔法の理論を考えることはできますが実際に魔法を扱うのが苦手なもので」


 セシルとレオナは魔法使いとしては正反対である。実技と座学、どちらか一方なら一流の魔法使いにも引けを取らないものの、もう片方が並よりも劣っていた。魔法使いたるもの、どちらも兼ね備えて初めて一流と呼べるのである。


 「なかなか面白い話を聞けたよ。ありがとう」

 「どういたしまして。こちらもマスカールの人形師の話を聞かせてくれると嬉しいわ」


 レオナは魔法使いの世界の事情話と引き換えにマスカールの人形師たちの面白い話を求めた。そんな彼らの中には共通する一つの話題があった。


 「この街の人形師といえば、ユリエスの名は知っているな」

 「ええ。あったことも話したこともありますよ」

 「それなら話は早い。あのユリエスという男、作品のアイデアにとにかく乏しい。作品を一つ作るのに時間がかかるのはそれが原因だそうだ」


 レオナはユリエスの一面を知った。彼女がユリエスと対面したとき、彼はすでにアイデアを獲得した状態であったため、本人の口からは語られなかった情報である。


 「どうして人形師なのにそんな……」

 「アイツが師事していた人形師の影響だろうな。その人形師は技術は超一流、でも弟子たちに自分の作品を作ることを禁じていたからな」

 「それじゃあ弟子が育たないのでは?」

 「その通り、その人形師は端から育てるつもりはなかったんだ。でもユリエスは自分でアイデアを見つける能力が欠如したまま作品制作の技術だけをどんどん身に着けた。で、その結果が今のユリエスってわけ」


 ユリエスは師から十全な教育を施されず半ば独学で人形師としての技術を身に着けた、いわば天才である。しかし彼の中には作品を作るうえで最も重要ともいえる想像力やアイデアが欠落してしまったままであり、技術力だけが周囲に評価される期待が重圧となっていた。

 無論ユリエス自身もその欠点を自覚しており、どうにか克服しようとしているが脱却すつことができていない。このままでは彼が人形師として潰れてしまうのも時間の問題であった。


 「なんとかしてあげられないんですか」

 「俺たちの最初はどうにかしてやりたいと思ったけど、どうも自分の中で納得がいくアイデアを見つけないとダメらしくてな」

 「それに、アイツの技術は俺たちじゃ到底追いつけない領域にあるから今更俺たちからどうこう教えられることでもない」


 人形師たちも一度はユリエスに手を差し伸べようとしたものの、彼元来の気難しさが改善を妨げてしまってどうすることもできなかった。

 こうなった原因は彼自身と彼を取り巻く周囲の環境の双方にあると考えたレオナは無言で踵を返すと会場を離れてどこかへと歩いて行ってしまった。



 「おいおい、急にどこ行くんだよ」

 「すみません。うちの妻は何かを思いつくとすぐに行動するもので。今回はお話をありがとうございました」


 セシルがレオナの代わりに人形師たちに礼を述べると足早にレオナを追いかけていった。人形師たちは風変わりな夫妻の後姿をを物珍しそうに眺めるのであった。

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