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家族の思い出

 ハルトとレオナがユリエスの工房を訪ねてから数日、ついにコンテストの本番でもある人形祭が明日に迫った。最後の総仕上げのためにレオナは一人で工房にこもり切りになり、ハルトたちは暇を持て余していた。

 

 「そういえば俺たちって人形祭のことあんまり詳しく知らないよな」

 「確かに。人形祭が何をする祭りなのかは知っているが何のための祭りかは知らないな」


 ハルトとループスは人形祭の詳細を知らなかった。祭りの発祥には何があるのか、それを知りたくなったのである。


 「父さんは何か知ってる?」

 「いや、何も」


 セシルも人形祭りについて詳細は知らなった。というよりもこれまでずっとレオナのアシスタントに奔走していて自分の自由時間どころではなかった。


 「ちょうどいい機会だ。この街の歴史について知ろう」


 思い立ったセシルはハルトとループスに座学じみた勉強会を提案した。二人はそれに同調し、三人でマスカールの通りへと繰り出した。


 「こうして一緒に歩いているとアルバスが小さかったころを思い出すね」

 「またおんぶしてみるか?」


 我が子の幼少期を思い出してノスタルジーに浸るセシルに対してハルトは冗談めかした言葉を返した。彼女の幼少時代はプリモの人々の仕事を手伝うことで分け前を得て日々を食いつなぐような生活を送っており、その移動中によくハルトはセシルと手をつないで歩いていた。そして疲れると父におんぶを要求してくるところまでがお約束のようなものであった。


 「……」

 

 ループスはそんな二人のやり取りをどこか寂しそうな表情をしながら眺めていた。貧しいながらも愛情に満たされたハルトの幼少期とは対照的に彼女の幼少期は厳しい父にひたすらに武術を叩き込まれ、家に戻れば魔法を教え込まれる直接的な愛情に欠けた日々を過ごしていた。

 和気藹々とするアイム一家の姿は家族とのまともな思い出を持っていないというループスのコンプレックスを刺激するのである。


 「どうした?」

 「ああ、家族と仲がよくて羨ましいなって」

 「ループスちゃんはこれからそういうのを作っていけばいいんだよ。小さい頃に過ごした時間は巻き戻したり取り戻したりはできないけど、これから先をその分いい思い出で満たしていけばいい」


 家族仲を羨むループスにセシルは含蓄のある言葉を送った。それは彼女よりも長いときを生き、酸いも甘いも経験してきた大人ならではの言葉であった。


 「君たちの人生はまだ長い。だから急がずにゆっくり歩いていこう」

  

 セシルは少し歩幅を狭め、歩いて背を向けたままハルトとループスに言い聞かせた。それによってループスは先日のレオナの『貴方はアイム家の一員なんだから』という言葉を思い出し、第二の家族としてセシルとの距離を縮めようと考えるに至った。 


 「ループスちゃん?」

 「ちょっと親子らしいことをしてみたくなった。実の父上とはこういうことをしたことはなかったから……」


 ループスは照れ隠しで視線を逸らしながらセシルの手を握った。はじめは行動理由が理解できなかったセシルだったがそれがループスなりに甘えようとしてのことだと察すると静かにその手を握り返す。そんな様子をハルトはきょとんとした様子で眺めるのであった。



 「手がふさがってそうだから俺はこっちに」

 「おっと……ちょっと重くない?」

 「失礼な。それ母さんの前で同じこと言えるか?」

 「ごめんごめん」


 二人の娘にじゃれつかれながらセシルはマスカールの街をゆっくりと歩くのであった。

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