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人形の胸像

 「アルバス、ループスちゃん、ちょっと見てもらってもいい?」


 レオナに呼びかけられ、ハルトとループスが見せられたものはついさっきレオナが彩色したばかりの人形の目であった。


 「めっちゃ綺麗だな。人の手で色を塗ったものとは思えない」

 「最初からこういう模様だったって言われても信じられそうだ」


 ハルトとループスはその出来栄えを絶賛した。二人は芸術方面の知識は多少持ち合わせてはいるが技術面ではさっぱりなため、レオナの塗りが超絶技巧に見えていた。塗りが自然に見えると自分以外から評されたことでレオナは内心で自信を抱いた、


 彩色された目は瞳が金色に輝き、その瞳孔は針のように細く尖った形状をしていた。ハルトとループスはその目にかなり見おぼえがあった。


 「なんか俺の目みたいだな」


 ハルトは独り言のようにつぶやいた。レオナが彩色した目はハルトのそれにそっくりだったのである。しかもその再現度はかなりのものであり、ハルトが自分の目をそのまま取り出されたかのように錯覚するほどであった。


 「お母さんが今作ってる人形ね、『自慢の我が子』が題材なの。だからその目はアルバスの目を似せて作ったのよ」


 レオナが今作っている人形にはテーマがあった。それを聞いたハルトとループスが上半身だけが作られた人形の胸像を見てみると目こそ今のハルトのそれにそっくりであったがそれ以外の部分はまるで別人である。人形はどちらかといえば『ハルト・ルナールブラン』ではなく、かつての姿『アルバス・アイム』にそっくりであった。


 「なんというか……これ、昔の俺だよな」

 「その通り。姿は昔のアルバス、目は今のアルバス。変わっていく我が子を表現できてたらいいなーって」


 ハルトはレオナに尋ねると、レオナは意気揚々と答えた。親子がやり取りを交わしている中、ループスはなぜか人形を視界から遠ざけるようにそっぽを向いていた。


 「ループスちゃん、なにか気に入らないところでもあった?」

 「いや、なんというか……学校にいたころの嫌な記憶を思い出して」


 ループスが学校に在籍していた頃、座学も魔法の実技も唯一成績で勝つことができず、嫉妬に燃えた相手がアルバス・アイムであった。そんな人物にそっくりな人形を見ていると嫉妬に狂っていた頃を思い出すのである。


 「アルバス、学校にいたときにループスちゃんと何かあったの?」

 「あったといえばあったけど、俺は何もしてない。それは母さんも知ってるだろ」


 ハルトが今の姿になった経緯にはループスの嫉妬が大きく関わっていることはハルトがプリモに帰省したときに語っていた。つまりレオナはこの話を一度は聞いているのである。


 「あー、そうだっけ?あんまり覚えてなくて」

 「こんな話は覚えることじゃないから」


 あまり話を覚えていない様子のレオナにハルトはそう言う。姿が変わった経緯はループスにとっては嫌な話であるため、あまり掘り起こせるような内容ではなかった。あまり深く踏み込まれてもループスが嫌な思いをするだけであるため、ハルトはレオナにそうさせないように誘導をかけていた。


 「お昼ご飯できたよ。もういい時間だし食べようか」


 小間使いをしていなかった合間に昼食を作っていたセシルが食事を呼びかけた。しかしレオナはそれに応じる素振りを見せない。


 「人形の目をもう片方作ったら食べる」

 「冷めちゃうけど大丈夫?」

 「心配しなくていいわ」


 レオナは作業を再開し、もう一つの目に色を吹き込みはじめた。こうなると少なくとも数十分は作業場から動かない。

 それを知るセシルはそれに対して食い下がるようなことはせず素直に下がり、ハルトとループスと三人で食卓を囲んだ。


 

 「母さんも昼はちょっとぐらい休めばいいのに」

 「中途半端なところで手を止めたくないんだろうね。アルバスだってそうだろう」


 ハルト、ループス、セシルの三人はやり取りを交わしながらレオナを差し置いて昼食にありつくのであった。

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