改良された発明
あれからさらに数日、ハルトを取り巻く周囲の環境は変わりつつあった。
ハルトは精力的な売り込みの甲斐もあって小規模ではあるものの仕事用の道具の整備や修理の依頼が舞い込むようになってきた。
そしてフィリアは町の子供たちと徐々に打ち解け、お店で対面する機会が増えていた。
ハルトがかねてより進めていた銃の改良も順調に進んでいた。時折廃棄された機械の部品などを引き取り、それを魔法で再錬成することでパーツの調達を容易かつ安価で行えるようになったことが大きかった。
「ふっふっふ……我ながらいい出来だ」
自ら書き起こした設計図を基に組み上げた新しい銃を眺めながらハルトは不敵な笑みを浮かべた。弾薬の装填部分は新たにリボルバー式を採用し、再装填を経由せずに最大五連射が可能に、排莢と再装填は打ち切った後にまとめて行うことでより効率的な運用が理論上は可能になった。
「よし、早速実験だ」
新しい発明ができたとなればやることは実験であった。彼女にとって発明とは実験の成功を経て初めて完成するものである。
ハルトは仕事の予定を放り出して銃と実験用の弾薬を持ち出し、外へと飛び出した。
朝の広場は静かであった。昼間は子供たちの遊び場になっているものの、それよりも前の時間にはほとんど人がいなかった。むしろそれがハルトにとってはより好都合、広い空間を存分に利用できる格好の実験場であった。
ハルトは銃を中折りし、リボルバーに微量な魔力を込めた弾薬を二発装填した。まずは連射機能を試すための動作実験からである。
まず一発目、ハルトが銃口を上に向けて引き金を引くと弾薬から魔力が解放されて青白いレーザー光が放たれた。光はすぐに消え、余剰放出された魔力が微かに銃口から迸る。発射音を聞いて正常に作動していることを確認したハルトはすぐに二発目を発射すべく再度引き金を引いた。
「……ッ!」
引き金を引いたハルトは実験が成功したことを確信した。その銃口からは一発目の魔力とは別に橙色の魔力が迸っていた。確かに連射に成功したのだ。弾薬もしっかりと二発消費されている。
念のために空になった薬莢を排出し、同じ弾を二発詰めて引き金を引いても確かに連射ができた。偶然などではない、確かな成功がそこにはあった。
「ムフフ……やはり俺は天才だったか」
ハルトは大きく鼻息を吐きだした。興奮で耳がピコピコと動き、尻尾が左右に大きく揺れる。
銃の改良が完成した今、もうこの町にとどまる理由がなくなった。あとはフィリアに借りていた部屋を元通りに片付けて次の行き先を目指して出発するのみである。
その前にハルトはなにか一つフィリアへの恩返しがしたかった。あちらの好意もあったとはいえ、数日も食事と寝床を提供してもらった身である。フィリアには何か報いるべきだと考えていた。
果たしてフィリアには何をすれば恩返しになるのだろうか。自分の一挙一動すべてに喜びを示す彼女が本当に喜ぶことがなんなのかハルトにはイマイチわからなかった。
「おばさんが喜ぶこと、喜ぶこと……」
ハルトがぶつぶつと呟きながら歩いていると、子供たちが集まっているのが見えた。しかし今日はなにやら普段と様子が違う。
ハルトは子供たちに声をかけることにした。
「よう。今日はこんなところでどうしたんだ?」
「おばさんの喫茶店に行こうとしたんだけどお母さんに止められたの」
「俺も。毎日行きすぎだって」
どうやら子供たちは揃いも揃って喫茶店へ通うのを親に禁じられてしまったようであった。それを聞いたハルトの脳裏に嫌な予感が過った。
「なんで行っちゃダメなんだろう。おばさんはいい人なのに」
子供たちの言い分は最もであった。フィリアは断じて悪い人ではない。ただ子供たちに格安で美味しいおやつを提供していただけである。
なぜそれを止められなければならないのだろうか。
ハルトの耳に遠方から何やら感情のこもった声が届いた。その方角にはフィリアの喫茶店がある。
どうやら嫌な予感が的中しているような気がしてならなかった。
「みんなはここで待ってろ。俺がおばさんの所へ行ってくる」
そう言うとハルトは銃を二つ折りにし、リボルバーに弾薬を五発分装填した。最悪の場合を想定しての護身用である。
「どうしてお姉ちゃんだけで行こうとするの?」
「たぶんみんなのお父さんやお母さんがいる。お前らが言っても追い返されるだけだからな」
ハルトは方便を使って子供たちの随伴を拒んだ。
きっと喫茶店にはフィリアのことを子攫い女だと決めつけようとする大人たちが文句をつけに押し寄せているのだ。だとすればフィリアが危ない。
「それに、お前たちじゃ俺には追いつけないからなッ!」
ハルトは軽く勢いをつけると弾丸のごとくすっ飛び子供たちをその場に置き去りにした。
その速さたるや、子供たちの目にはハルトの残像が映ったように錯覚するほどであった。
フィリアにはもう辛い思いはさせない。
その一心でハルトは町中を駆けるのであった。