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人形師レオナ

 「あらぁ~!アルバスにループスちゃん!こんなところで会うなんて奇遇ねぇ!」


 作業に区切りをつけ、戻ってきたレオナはハルトとループスを二人まとめて腕の中に引き込んで熱い抱擁を交わした。相変わらずの力強さに圧迫されてハルトとループスは互いに息苦しさを覚える。


 「母さんは人形祭に参加しに来たって聞いたけど、どこでそれを知ったんだ?」

 「人形を買いに来たお客さんが教えてくれたの。お母さんならいいところまで行けるだろうって言ってくれてね」


 レオナは工房の客伝手でマスカールの人形祭のことを知ったようであった。


 「ところでアルバスとループスちゃん、尻尾の毛伸びた?」

 「グラーシャに行ったら生え変わったんだよ。冬毛ってやつ」

 「へぇー、ふわふわしてて可愛いじゃない」


 ハルトとループスの尻尾の毛が冬毛になったことを知ったレオナはハルトの尻尾の手触りを堪能しはじめた。ハルトは冬毛になってから誰かに尻尾を触らせるのは初めてであった。


 「あ、そうだ。アルバスとループスちゃんもしばらくこの工房で人形製作手伝ってくれない?」


 レオナは唐突にハルトとループスに人形製作の手伝いを頼んだ。人形祭までの時間が限られている以上、こうなることは二人にはある程度予見できていた。


 「もちろんタダでとはいいません。マスカールに滞在している間はここを寝床にしていいし、ここにいる間の食事も出します」


 レオナは衣食住の保障を対価としてハルトとループスに提示した。この工房はレオナたちに貸し与えられた職場であると同時にマスカールに滞在している間の居住空間も兼ねていた。それを無償で利用できるのは基本的に根無し草の二人にとっては宿代と食費が浮かせられる絶好の条件であった。


 「それなら手伝うよ。何をすればいい?」

 「お母さんは人形を作るのでみんなにはそれ以外のすべてをやってもらいます」


 条件に釣られて要求を飲んだハルトが手伝いの具体的な内容を尋ねるとレオナはとんでもないことを口走った。この工房において人形製作の技術を持っているのはレオナただ一人である。彼女が人形製作に集中するために材料の調達や運搬に廃棄物の処分、衣類の洗濯や食事の用意などあらゆる小間使いをするというものであった。

 あまりの仕事量の多さにハルトとループスは目を丸くした。


 「二人なら楽勝でしょ。お父さんは今日まで一人でやってきたんだから」


 レオナはさらりとこれまたとんでもないことを言ってのけた。彼女の言う『人形製作以外のすべて』をセシルはこれまで一人でこなしてきたというのである。


 「やってくれるって言ったならもう拒否権はありません。これはお母さん権限です」


 レオナは『お母さん権限』を持ち出して約束を取り付けた。こうとなってはハルトとループスは従わざるを得ないのであった。


 「そういえば父さんは?」

 「ご飯を作ってもらってるけど」


 レオナと話している間、セシルを見かけないと思いきや彼は今夕食を作っていたのであった。


 「おじさんって料理できたのか?」

 「ちょっと前から人並にできるようにしてあげたのよ。いつかこういう時のためにってね」


 セシルはレオナに料理の腕を仕込まれたようである。人形師であるレオナにとって作業を行うための指先は非常に大事なものであり、そこに切り傷や火傷を負うことは極力避けたかった。ましてや人形祭用の人形の製作という大仕事の最中故に危機管理に意識が向くのはなおさらであった。よってこの期間中の料理はすべてセシルが請け負っていたのである。


 「あとループスちゃん。貴方はアイム家の一員なんだから、おじさんじゃなくて『お義父さん』でしょ」


 レオナはループスにセシルの呼び方を矯正するように促した。彼女はループスのことをプリモで出会ったときから家族の一員と考えており、その場限りの関係だとは思っていなかった。よってレオナにとってはセシルとループスは赤の他人ではなく、義理の父親とその娘であった。


 

 「夕食できたよー。いつでも食べにおいで」


 ちょうどタイミングよく料理を完成させたセシルはハルトたちに夕食の催促をかけに現れた。ハルト、ループス、そしてレオナの三人はその日の夕食にありつくべく工房の奥に用意された小さな食卓へと向かうのであった。

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