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ケモミミTS魔法少女は何を見る~俺は天才だ!~  作者: 火蛍
2章 子攫い女
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気を許す

 「おばさんありがとう!」

 「ごちそうさまでした!」


 子供たちからのフィリアへの評価は一瞬で覆った。腕によりをかけて焼いたパンケーキを嬉しそうに食べる子供たちの姿をフィリアはニコニコと見守っていた。


 「今日は来てくれてありがとう。今度はもっとお友達を連れてきてもいいからね」

 「今度は自分のお小遣いを持ってくるんだぞー」


 帰りゆく子供たちの背にフィリアとハルトは声を送った。

 今回の代金はハルトの立て替えであった。パンケーキは庶民階級クラスの子供の小遣いでも気軽に頼めるぐらいの価格に設定されていた。最初は無料にしようとしていたフィリアをハルトが諫めてようやくこの価格が設定されたぐらいである。

 

 「ありがとうハルトちゃん」

 「これぐらいならお安いもんだ。次はもっと来てくれるといいな」

 「ええ」


 この日は三人だけだったがフィリアにとっては久々の子供との対面であった。

 本人は今まで避けられていた事情を知らないというのがなんとももどかしかったがハルトは黙っていることにした。


 「ハルトちゃんはいつまでここにいてくれるの?」

 「次の行き先が決まるまでかな。まだ決めてないんだがどこかいい場所はないか?」


 夕食を二人で食べながらハルトとフィリアは語らっていた。

 ハルトは次の旅の行き先をまだ決めておらず、特に行きたいところも思いつかなかった。

 

 「ブルームバレーはどう?一年中きれいなお花が咲く花畑があるのよ」


 初めて聞く場所の名にハルトは興味を示した。これまで町のことは生まれ故郷のプリモと学校のあった町、そしてこの町ぐらいしか知らなかった。


 「へえ、面白そうじゃん」

 「おばさんも結婚したときに夫と一緒に観光に行ったの。花畑も見てきたんだけどすごくきれいだったわ」


 フィリアはブルームバレーへの旅行経験があるようだった。彼女の体験談にハルトは期待で胸を膨らませた。

 

 「よし決めた!準備ができたら次はそのブルームバレーとかいうところに行くか」


 ハルトは次の行き先を決めた。その様子を見たフィリアは賛同しつつもどこか寂しそうな表情を浮かべた。


 「俺がいなくなったら寂しいか?」

 「確かにちょっと寂しくなっちゃうわね。でもハルトちゃんはお客さんだから、いつかはいなくなるものよね」


 フィリアは素直であった。これも、自分相手に気を許しているからこその発言であることはハルトにも理解できた。きっと自分がここに転がり込んできて彼女は久々に子供が帰ってきたような感覚を覚えていたのだろう。

 ハルトは何か一つ彼女に思い出を残そうと考えた。


 「なあおばさん。お風呂上がりの毛繕い、やってみるか?」

 

 ハルトはフィリアに自分の毛繕いを頼み込んだ。今のフィリアが望むことは子供とのスキンシップだとハルトは推測した。であればハルトが肌の温もりを感じさせられる距離でできることは毛繕いであった。

 そして、自ら耳と尻尾に触れることを許可するのはハルト自身がフィリアに気を許したことの表れでもあった。


 「本当にいいの?」

 「ああ。触るのを許すのはおばさんが初めてだ」


 ハルトは自分の尻尾に触れることを取引材料にしたことはあったが見返りを求めずにそれを許可するのはフィリアが初めてであった。数日の間にハルトにとってフィリアはそれだけ信頼のおける存在になっていた。


 そしてお風呂上り、ハルトは毛繕い用のブラシをフィリアに手渡すと自らは背を向けて尻尾を差し出すようにまっすぐに伸ばした。


 「こうしてみるとハルトちゃんの尻尾って長いのね」


 フィリアはハルトの尻尾の長さを改めて知った。彼女の尻尾は自分の背丈の半分ほどもあり、すべて垂らせば先端が地面に届くほどであった。


 「ッ……!」


 フィリアは手にしたブラシでハルトの尻尾の毛繕いを始めた。くすぐったい感覚を堪えてハルトはぐっと声を抑えた。


 「そうだろう。手入れも結構大変なんだぞ」

 「ずっと生えててお尻重くない?」

 「そりゃあ重いぜ。でもちゃんと自分で動かせるし、慣れたら苦にもならなくなった」


 毛繕いをしながらアルトとフィリアはやり取りを交わした。自分の言葉が嘘でないことを示すようにハルトは尻尾の先端を紙縒りのように揺らしてみせる。


 「柔らかくてふわふわ。こんなのずっと触っていたくなっちゃうわね」

 

 フィリアは毛繕いをする中で改めてハルトの尻尾の手触りに感動を覚えた。きっと自分以外の誰もが同じことを言うだろうとすら考えた。


 「でも寝癖が付きやすくて困ってんだ」

 「そうなの?朝の毛繕いもおばさんがやってあげようか?」

 「朝はお店の準備でそれどころじゃないだろう」

 

 ハルトは毛繕いをされる内に次第に心地よさを感じるようになっていた。他人に触らせるなどもってのほかだと思っていたが案外こういうのも悪くないと考え始めていた。


 「あの子が生きてたらこんな風に髪を梳いてあげたりしてあげられたのかな」

 「そうかもしれないな」

 

 毛繕いの最中、フィリアは亡き息子への愛着を思いだしていた。きっと彼女はもっとこうやって自分の子とやりとりを交わしていたかったのだろう。したくてもできなかったことをこういった形で実現できたことに心底喜びを感じていた。


 「はい終わり」

 「おぉ……」


 毛繕いを終え、その出来栄えを鏡で見たハルトは感服した。この前強引にされたときと同じぐらいに目に見えて尻尾の毛艶がいい。自分でやるよりもはるかに状態が良くなっていた。


 「ありがとうおばさん」

 「こちらこそ。息子がいたころを思い出して楽しかったわ」


 ハルトはお礼を告げた。喜びの感情で無意識のうちに耳が上下に起伏を繰り返し、尻尾が左右に揺れる。

 フィリアもフィリアで楽しかったようであった。


 「どうやって毛繕いすればこんなに綺麗にできるんだ?」

 「うーん……愛情かな。可愛いハルトちゃんがもーっと可愛くなりますようにって」

 「か、可愛い!?」


 フィリアから褒め言葉を受けたハルトは反応がしどろもどろになった。

 今の自分の容姿にはそこそこ自信を持ってはいたが一対一の真正面から褒められたのは何気に初めてであった。


 「じゃあおやすみー」

 「おやすみ」


 フィリアは家の明かりを消して就寝した。ハルトもベッドに潜り込んで丸くなる。



 「俺、可愛いのか……?」

 

 その夜、ハルトは胸がざわついて中々寝付けなかったのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] ハートがフィリアとどのように相互作用するか、母と娘の相互作用のように、私はそれが好きです。
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