並び、共に戦う
「貴様、一対何を……ッ!?」
突然教会の壁面が破壊されたことに対してフラムはループスにその手口を尋ねたところでその正体に気がついた。この場にいない狐、ハルトの仕業だったのである。こうしている間にも数十秒に一回魔弾が発射され、一か所また一か所と教会の壁に穴が開いていく。
フラムは教会が破壊されたことに気を取られ、ループスに付け入る隙を与えることとなった。ループスは剣の間合いまで潜り込むとフラムの得物である槍の柄を掴んだ。純粋な筋力ではループスの方が上回っており、フラムが押しても引いてもループスの腕はびくともしない。
得物を封じられたフラムは早々に槍を捨て、どこからともなく剣を抜いてループスと切り結びはじめた。
「よほど武術が好きなようだな」
「これしか傾倒できるものがなかったのだ!」
ループスと切り結ぶ中でフラムは断片的に己の身の上を語った。どうやら彼女は上流階級の中でも特殊な家庭環境に生まれ育ったようである。
女性でありながら武術に傾倒できるような環境や人物像にループスは思い当たる節があった。
「貴様、元々継承権を持っていなかっただろう。だから自分の好きなものに傾倒できた」
「如何にも。だがなぜそれがわかった」
「上流階級出身で軍人でもないのに武術に傾倒できるなんてそれぐらいしかないだろうからな」
フラムは家督を継承する権利を持っていなかった。しかし彼女はどうにかして上流階級に生まれた旨味を謳歌したかったのである。そこで目をつけたのがグラーシャにあった雪空の会であった。その教義故に活動資金に困窮していた雪空の会を買収する形で支配権を獲得し、街を乗っ取り我がものとしたのである。
やり取りを交わしながらループスとフラムが刃を交える中、閃光の如き軌跡がフラムの真横を通り抜けるように描かれた。教会の壁を破壊したハルトが援護に駆けつけたのである。
フラムが怯んだ隙にループスはハルトと合流し、雪空を背に二人並び立つ。
「よくも私の教会を……」
ハルトとループスに教会を荒らし尽くされたフラムは怒りに打ち震えていた。あわよくば仲間に引き入れようとも考えていたがもはやそんな余地はなく、ただ目の前にいる二人を徹底的に叩きのめすことしか考えられなかった。
「元々お前のじゃないだろう」
ハルトは銃を構えたままもっともな指摘をフラムにぶつけた。現在はフラムが私物化しているものの、教会は元々グラーシャにあったものである。
それを否定するかのようにフラムはハルトに魔法をぶつけるが眼前でループスに切り払われて阻まれる。
「俺が前に出てお前を守る。後ろは任せたぞ」
フラムの放った魔法を切り払ったループスは前衛役を請け負った。ハルトの武器の強みが最も活きるのは中距離以遠である。ループスが動く盾となることで得意距離を維持しつつ、大型銃での火力支援が可能であった。一方で間合いの外からの一方的な射撃によってフラムの得物による優位性を打ち消すことができた。
ハルトは片膝をつき、大型銃に弾を込めるとフラムを狙い撃つ構えを取った。そんなハルトを守るようにループスが突撃し、フラムへと斬りかかる。
ループスは立ち回りを変え、これまで使ってこなかったジャンプを織り交ぜた攻撃でフラムの視点に揺さぶりをかけた。フラムはループスへの対処に追われた。かといって迎撃のために足を止めれば今度はハルトから一撃必殺の魔弾による援護射撃が飛んでくる。一気に形勢が不利になったフラムは逆転の一手に出ざるを得なくなった。
「イージス!」
フラムはここまで対ループスで使用してこなかった防御魔法を発動させた。防御魔法の発動によってフラムの周囲は結界に守られる。
しかしループスはそれに臆さず、魔法剣を白熱化させてフラムの結界に真正面から突っ込んだ。剣の一撃は結界に遮られて届かないものの、それでループスの魔法剣が刃こぼれを起こしたりするようなこともない。ループスは力任せに結界ごとフラムを剣で押し込んだ。むしろこの状況こそがループスの望んだものであった。
「無駄だ。お前にもこれは敗れぬ」
「確かに俺だけじゃ無理かもな」
結界に守られるフラムに対してループスは目をぎらつかせながら睨みつける。イージスは確かに魔法剣の攻撃を防ぎ続けているが、フラムは絶えず威力を発揮し続ける魔法剣の防御のために自身の魔力を消耗し続けていた。
押し込み続けること数分、フラムの展開するイージスとループスの魔法剣との接点にわずかな亀裂が走った。フラムがイージスを維持できる時間に限界が来ようとしていたのである。ループスはその瞬間を見逃さなかった。
「ハルト!」
ループスが叫ぶようにハルトにサインを送ると、ハルトはフラムの頭上を狙って大型銃の引き金を引いた。彼女の持つ最高威力の大魔法を込めた魔弾はイージスにぶつかり、相打つ形でイージスを粉々に吹き飛ばしてみせた。ループスの言葉通り『二人の力』でフラムの魔法を破ったのである。
「ば、馬鹿な……」
これまで無敗を誇ったイージスが破られたことにフラムは動揺を隠せなかった。それは眼前の二人の猛攻を自力で防ぐことができないことを意味していた。
さらに教会には荒れた空から雪と風が吹きつけられ、生身の人間であるフラムを容赦なく寒さに晒す。能力的にも体力的にも、フラムの敗北は決定的であった。
「勝負あったな」
ループスはダメージが蓄積して膝をついたフラムに魔法剣の切っ先を向けて投降を促した。この場にいる三人以外の誰が見てもフラムの敗北は揺るがないであろう状況であった。
「いいや!私はまだ終わらぬ!」
敗北が決定した状態の中でフラムはそれでもと言わんばかりに往生際の悪さを見せたのであった。




