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ケモミミTS魔法少女は何を見る~俺は天才だ!~  作者: 火蛍
10章 辺境の街グラーシャ
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一泊だけの仲

 翌朝、空気が少しばかり冷えているのを感じ取ったハルトは目を覚まして身体を起こした。寝ぼけ眼を擦り、髪をいじって寝癖の付き具合を確かめる。寝癖が付きやすい毛の質をした彼女は朝の寝癖直しが習慣であった。


 ハルトはブラシを取り出して髪と尻尾の寝癖直しをしていると、昨夜の女性が毛布にくるまって震えていることに気がついた。女性は暖房が切れた建物内の寒気でハルトたちより先に目を覚ましていたのである。


 「お、おはようございます……」

 「おはよう。もう起きてたんだな」

 「当り前じゃないですか。こんなに寒いんですから……」


 女性は毛布にくるまりながら顔だけを出してハルトに挨拶した。この空間の温度はハルトたちにとっては少し肌寒い程度にしか感じられない程度だが女性のような一般人にとっては肌に刺さるようなものである。しかしハルトとループスにはそれがわからなかった。

 自分は平気だったものの、女性が寒そうにしているのを見かねたハルトは暖房のバッテリーを外し、自分の魔力を充填すると再び暖房を作動させた。


 「これに当たっとけ。暖かいぞ」

 「ありがとうござます。何から何まで」


 女性は背中に毛布を背負ったままのそのそと移動し、暖房に近寄って身体を温めた。そんな中、ループスはまだ眠りこけていた。彼女が基本的に朝がルーズなのはいつも通りである。

 この寒気の中で平気で眠っていられたハルトとループスに女性は驚かされっぱなしであった。


 「お二方は寒いの平気なんですね」

 「まあな。普通の人よりは強いかもな」


 寝癖を直し終えたハルトはループスを起こすべく彼女の被っている布団を引っぺがした。


 「おい起きろ。もう朝だぞ」


 ハルトに声をかけられたループスは身体を小さく丸め込み、小さな呻き声をあげるとようやく目を開けた。

 

 「ほら、寝癖直すから身体起こせ」

 「ん?あぁ……」


 ループスはハルトに催促させるままに上半身を起こすと髪と尻尾の手入れをハルトに委ねた。彼女の毛はハルトと比べると硬く、また多少の癖がある。絡まった毛をほぐすときにブラシが引っかかって止まることがあるほどであった。


 「何か食べるか」

 

 毛繕いを終え、身支度を整えたループスはおもむろにギルドの外に出た。外には昨日仕留めた熊の肉が雪の中に埋めて保存してあったのである。

 

 「……は?」


 ループスは眼前に広がる光景を見て呆然とした。そこには昨夜ハルトが予防として張った結界に引っかかって気絶した雪空の会の信徒と思わしき人が数名倒れていたのである。

 まさかとは思ったが本当に時間を問わずに襲撃を仕掛けてくるとは思いもよらなかった。やはり雪空の会の信徒たちは過激派が中心になっているようであった。偶然保護した女性が本当に希少な存在であることが窺えた。


 ループスは倒れている輩に目を背けて放置し、埋めた熊肉を掘り起こして冒険者ギルドの厨房を拝借した。不思議なことに廃墟同然の施設にも関わらず調理器具や調味料が使える状態で置かれていた。どうやら雪空の会の信徒たちがここを拠点にしていたときに持ち込んだもののようである。


 「というわけで今日もこれだ」


 女性は目の前に出されたそれを見て困惑した。火を通してなお獣臭さの抜けきらない熊肉を彼女は今まで見たことがなかったのである。


 「なんですかこれ」

 「何って、熊の肉だけど」


 呆然とする女性にあっさりと答えるとハルトとループスは熊肉にかぶりつく。簡単な調味料を加えるだけで昨夜の丸焼きとはずいぶんと味が変わったように感じられた。 

 二人の食事風景を見て女性は恐る恐る熊肉に手を付けた。


 「硬っ……」


 女性は熊肉をなかなか噛み千切れなかった。彼女にとって熊肉は火が通っているとは思えないほどに硬かったのである。

 しかしその硬さを差し引いても美味であった。


 「昨夜狩ってきたんだ。美味いだろ」

 「少しぐらいならわけてやってもかまわないぞ」

 「遠慮しときます。必要以上の施しを受けるのは教義に反するんで……」

 

 女性は雪空の会の教義を理由にループスの善意を断った。教義を守るためであれば仕方のないことだと納得したループスはすぐに引き下がる。


 

 「すみません。助けていただいて感謝します」

 「俺たちに助けられたとは言わないようにな」


 女性は頭を下げてお礼をすると雪空の会へと戻っていった。過激派の信徒たちに知られた場合のことを鑑みて背教者に助けられたことを口外しないよう、ハルトは念を押すように去り行く女性の背中から呼びかけたのであった。

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