廃墟を拠点に
信徒たちを力ずくで追い払っ廃墟を拠点にしたハルトとループスはこれからどこを拠点にするか考えていた。雪空の会の信徒たちは大方自分たちのことを敵として見ている。そんな信徒たちがどこにいるのかわからないうえにそこかしこであんなことになるのは御免である。よってどこかに身を隠す必要が生じてしまったのである。
「どこかに身を隠すのってもう無理じゃないか?」
「……」
ハルトの疑問にループスは言葉にならない唸り声を返した。身を隠す必要があってもそれができる場所がなかったのである。今朝までお世話になっていた老夫婦のところへ引き返してくるのも図々しいような気がするし、万が一老夫婦を危険に巻き込むようなことになってもいけない。
そう考えるとますます居場所がないような気がしてならなかった。
「いっそのこと、ここを拠点にするか」
理想的な場所が思いつかなかったループスが開き直ったようにハルトに提案した。ハルトは一瞬考えたが意外にもそれがまともな案のように思えた。
ここは廃墟も同然だが元々は公営の施設ということもあり、雨風を余裕でしのげるぐらいの居住性はある。魔法のおかげで水には困らず、暖房のおかげで寒さへの対策方法もある。雪空の会の信徒たちの目を避けて拠点にするにはちょうどよかったのである。
「その案、乗ったわ」
ハルトが同意したことにより、ハルトとループスはグラーシャの冒険者ギルドを活動拠点兼居住空間にすることを決定した。
行き当たりばったりで寝床の問題を解決できたはいいものの、二人はまだ重要な問題が解決できていないことを思い出した。お金を稼ぐ手段が見つかっていないのである。
「お金、どうやって稼ぐ?」
この街の人々は謙虚で勤勉を教義とする雪空の会の信徒が大半であり、そうでない者も同調圧力を受けてそうせざるを得ない状況に追い込まれている。よって必要以上の収入を得られなくなっていた。おまけに冒険者ギルドが機能していない以上、クエストの成功報酬での稼ぎを立てられず、機械も贅沢品とみなされるせいでハルトの機械修理も役に立てる場面がない。
このままでは次の街に旅立つどころかマレーネに引き返すことすらも難しかった。
「全員が全員貧しい暮らしをしているってことはないだろう。必ず誰かが裏でいい思いをしているはずだ」
ループスはグラーシャの社会の裏で何者かが暗躍していることを勘繰った。ある程度の規模の街には一人は富裕層や貴族といった上流階級の人間が一人や二人はいるものである。グラーシャの場合はきっと雪空の会の元締めがそうだろうと推測していた。
「そいつを叩くってことか?」
「そういうことになるな」
今の環境のままでは目的を果たすどころではない。自分たちが稼ぐことができる環境をつくるためという大義を作り、ハルトとループスは改めて雪空の会と戦うことを誓ったのであった。