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ケモミミTS魔法少女は何を見る~俺は天才だ!~  作者: 火蛍
10章 辺境の街グラーシャ
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不穏な気配

 足音の主を探すこと十数分、ハルトとループスはふらふらとよろめく人影を発見した。彼が足音の主で間違いないと確信し、二人は駆け寄っていく。合流する直前で人影は前に倒れ、雪の中に全身を埋もれさせてしまった。


 「おい、大丈夫か!?しっかりしろ!」


 ハルトは足音の主と思わしき男の上半身を抱き起して意識を確認した。男は虚ろな視線をハルトとループスに向け、なにかを話そうとするがただ白い吐息が漏れるのみである。


 「まだ意識あるぞ。こっちを頼む」


 ハルトは男の身柄をループスに託すと銃に弾を込め、雪に向かって魔弾をぶっ放した。魔弾は着弾と同時に周囲の雪を豪快に吹き飛ばし、薄茶色の地面を露出させる。ハルトはここに野営の設備を敷くつもりであった。


 「はぁ……はぁ……助かった……」


 ハルトとループスの処置の甲斐もあり、日が沈む頃には男は息を吹き返していた。雪と風を凌げるテント、温かい食事、テントの中の空気を暖める暖房のおかげでしばらくは寒さに体力を奪われることなさそうであった。


 「どうしてあんなところ歩いてたんだ?雪がないところを行ったほうが楽だろう」

 

 ループスが尋ねると男は顔をしかめた。理屈ではわかっているがそうしなければいけない理由があったと言わんばかりであった。


 「俺、逃げてきたんだ」

 「逃げてきたって、何から?」

 「グラーシャの『雪空の会』だ」


 男はグラーシャの出身であった。初めて聞く単語にハルトとループスは興味を深める。


 「雪空の会?」

 「信仰組織だ。今のグラーシャは雪空の会に支配されている」


 男の語りによって一気に不穏な空気が立ち込み始めた。ハルトとループスはちょうどそのグラーシャに向かっている途中だったのもあって一気に不安を煽られる。


 「君たち、こんなところにいるということはグラーシャに行くんだろう?」

 「そうだけど。それがどうかしたのか?」

 

 男に念を押されてハルトが断言すると、男は小さく唸った。


 「軽い気持ちでいくのならやめた方がいい。雪空の会に関わられたらろくな目に遭わないぞ」

 「アンタの言う雪空の会ってのはそんなにひどいのか?」

 「昔は普通の信仰組織だったんだが……今はひどいものになってな」

 

 男曰く、雪空の会は最初から悪かったというわけではないようだった。何が雪空の会を変えてしまったのか、ハルトはそれが気になって仕方がなかった。


 「今から百年ほど前、グラーシャは元々街じゃなくてとある国の流刑地だったんだ」

 

 男はグラーシャと雪空の会の歴史について語り始めた。ハルトとループスはそれに対して興味津々に聞き入る。


 「元々罪を犯したものが流れ着いてきているというのもあってグラーシャの治安は人が暮らせるところじゃないとまで言われたほどだったらしい」

 「住んでいる人間が元犯罪者ばかりなら当然だな」


 ループスが相槌を打つ。流刑地は治安が悪くなりがちというのは彼女の中にもある知識の一つであり、グラーシャも例外に漏れなかった。


 「そこに現れたのが雪空の会だ。神の教えの下に人々を正しい方向へと導くという名目で奴らはグラーシャに入り込んだ」

 

 どうやら雪空の会には信奉する神というものが存在するらしい。


 「最初はまともに活動してたんだ。『神が見ているところで罪を犯してはならない』とか『熱心に労働をして徳を重ねることで人生はより豊かになる』とかいろいろ教義を布教して荒んでたグラーシャの治安を少しずつまともにしていったりな」

 「そうやって聞くといい組織にしか思えないけどなぁ」

 「問題はここからだ。今からおよそ十年前、ここから雪空の会は少しずつおかしくなっていったんだ」


 十年前はハルトとループスが生まれてから数年後であり、ハルトの両親ことセシルとレオナが訪れた後である。まだ温厚だった時期であるため、二人に雪空の会に関する記憶がなかったのも当然であった。


 「過度な節制を要求するようになったんだ。暖炉にくべる薪は一日に三本までだとか、直接火で焼いたものを食べてはならないだのいろいろだ」

 「こんな寒いところで焼いたもの食べちゃダメってのは確かにおかしいな」

 「そうだろう。俺はそんな暮らしが嫌になって逃げだしてきたんだ」

 

 何かを境に変わってしまった雪空の会は信者たちに必要以上の節制を強いているらしい。聞く限りでもハルトたちでもわかるほどの異常ぶりであった。


 「にしてもここは火を使わないのに温かいんだな」

 「これのおかげだな。電気か魔力を使って熱を生むんだ。俺が作ったんだぞ」

 

 ハルトは男に自作の暖房を自慢した。火を使わずに暖を取るという発想に男はたいそう驚かされた。


 「これがグラーシャにあればさぞ喜ばれるだろうな」

 「まだまだ完成品ではないんだけどな。本当はここに来るまでにはもっと長く動くようにするつもりだったんだ」


 ハルトは暖房を持ちながらそう語る。稼働時間は完成当初に比べれば少し伸びたもののそれでも四時間程度が限界であり、目標だった六時間にはまだ到達していなかったのである。

 よって夜は寝る前にバッテリーを交換して最大まで稼働させ、バッテリーが切れてから空気が冷え切る前に目を覚ますというのが今の二人の就寝事情であった。


 

 「今日はここで寝ていきなよ。流石にこんなところで夜に動くのは無謀だしな」

 「ではお言葉に甘えさせてもらおうか。朝になったらまたここから離れることにする」


 こうして、救助した男と共にハルトとループスは雪原での一夜を明かすのであった。

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