円満な解決法を探る
「ループス、俺どうしたらいいんだ?」
アダンにかつてない感情をぶつけられ、それを巡る雲行きの怪しさにすっかり弱気になってしまったハルトはたまらずループスに助力を求めた。ハルトは耳をペタリと伏せ、尻尾を腹の方へクルリと巻いて両腕で抱きかかえている。隠し切れない不安を少しでも和らげようと無自覚の内にとった仕草であった。
ループスはハルトのかつてなく弱気な姿を前にどうにかして力を貸してやりたいと思った。だがここに自分が直接介入するのは野暮であり、あくまでハルト自身の手で解決できるよう知恵を貸す程度に留めることにした。
「要するにアダンを殺さずに済ませつつお前に対する未練を残さずに済む方法だろ?」
一見難しいように見える要求を簡単に満たす方法がループスの中に一つだけ浮かんだ。その手法を取ることをハルトが受け入れるかどうかはさておき、ループスはひとまずそれを提案することにした。
「アダンの記憶を消せば解決するんじゃないか?奴の意識を一時的になくさせ、記憶を消して目を覚ます前にこの街から去る」
ループスが提案した手法、それはアダンの中からハルトに関する記憶を消去してしまうことであった。そもそもハルトのことを覚えていない状態にしてしまえば未練など抱える余地もない。要するに出会いそのものをなかったことにするのである。
親友から躊躇いもなく提案されたあまりにも単純かつ残酷な手法にハルトは身の毛をよだたせた。
「いくらなんでもそれは……」
「他に手があればそっちを実行すればいいだろう。最も、お前にそれができればの話だが」
淡々と言い放つループスを前にハルトは思い出した。ループスは本来目的のためならどこまでも冷酷になれる人物だったのである。
代替案を出せないハルトは俯いて黙り込んでしまった。ループスも自分が無茶を強要していることは重々承知しており、それによって人情家の面の強いハルトにどれほどの負荷をかけるのかは計り知れないものがあった。
「本当は俺だってできることならお前が辛い思いをせずに済ませてやりたい。けど、アダンを生かすにはそれしか思いつかない」
敗北して死ぬことを前提とした決闘を仕掛けてきた以上、決闘で殺すに至らなかったとしてもアダンは後で自害する。
ループスはそれを予感しており、それを防ぐためにはアダンの中から引き金となりかねないハルトに関する記憶の一切を消すしかないと考えていた。自衛のために他人を傷つけるのは致し方なしといえど、それで命を奪うことはしない。ハルトとループスにとって大事な理念を守るためにもそうするしか道はなかった。
「お前の辛い顔を見るのは俺も辛い。だからすぐに終わらせよう」
ループスはハルトを正面から抱き寄せながら励ますようにそう言い聞かせた。彼女はハルトに対して親友以上の感情を抱いており、誰よりも大切に思っているという自負があった。そんなハルトの弱った姿を見るのはループスも辛いのである。
「辛いときぐらいは頼られてやるから、だからお前はもっと俺のことを安心して頼れ」
ループスはハルトを宥めながら言葉をかけた。無償の親愛を捧げるループスにハルトはこの時存分に甘えたのであった。