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ケモミミTS魔法少女は何を見る~俺は天才だ!~  作者: 火蛍
9章 狐の恋慕
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衣替えの準備

 ハルトとループスが分担して準備を進め、グラーシャへ向けて出発するまでの支度が少しずつ整いつつあった。 

 残すはある程度余裕のある駄賃と、寒冷地用の装備の確保であった。後者を確保するため、ハルトとループスはマレーネの衣類品店に向かった。


 「ここに来た目的は」

 「グラーシャに行くために寒冷地用の装備を整えるんだろう。なんで今更そんなこと」

 「こういうところに来るとお前が目的を忘れるからこうやって確認し直してるんだろうが」

 「痛い痛い痛いって!耳はやめろ耳は!」


 ループスはハルトの耳を両手で掴みながら言い聞かせた。ハルトは自分の耳を掴んでいるループスの腕を抑えながらその手を離すように呼び掛けた。


 気を取り直して二人は衣類品店の中を散策した。ハルトが目的を忘れることのないよう、ループスが隣で常に監視をしている。


 「さっきからなんで俺の尻尾掴んでるわけ?」


 ハルトはループスが自分の尻尾の先端をずっと掴んでいるのが気になって仕方がなかった。どうやら明確な理由があるらしく、振っても離す様子を見せない。


 「決まってるだろう。お前が他所に行かないようにな」


 ループスはハルトの尻尾を掴んだまま淡々と答えた。その理由は迷子対策も同然であった。


 「はいはい。勝手にどっか行ったりしないからとりあえずその手を離せ」


 ハルトはループスに手を離すように要求した。直々に頼まれて応じざるを得なくなったループスが手を離すと、ハルトは尻尾を振り払って毛並みを軽く直した。

  

 ハルトたちは雪原地帯に向けて雪を弾く撥水性と体温を奪わせないための保温性の二つを重視した装備を探した。


 「これとかよくないか?」


 厚手の生地で作られた長袖の服とそれに合わせる上着を買い揃え、追加で必要な装備を探す中でハルトが見つけたのは革で作られた丈の長いブーツであった。ループスはハルトが手にしたそれをじっくりと眺める。


 「これなら雪に濡れずに済みそうだな」

 「それだけじゃないぞ。靴底の踵に金属が仕込んであるから滑らないし、薄い氷は踏んで砕ける」


 ハルトが語りながら手にしたブーツの底を見せると、踵にあしらわれた金属製のスパイクが鈍く光った。撥水性の高い革のおかげで足を雪で濡らさずに済み、雪や氷に足を取られずに歩けるのは雪原での使用にはまさにうってつけであった。

 二人はこのブーツを購入することを一致で決定した。


 「歩くための靴はこれでいいとして、流石に生足で雪原は歩きたくないな」


 ハルトは下半身周りの装備の充実化を提案した。語る通り、いくら歩くことができたとしても生足を晒して雪原を歩こうものなら凍傷を起こすことは確実であった。

 提案を受けたループスが真っ先に思いついたのは毛織物のタイツを着用することであった。


 「タイツでも履くか」

 「は?タイツってなんだ?」

 

 ループスがハルトに提案をするとハルトは首をかしげて聞きなれない単語の意味を尋ねた。タイツは基本的に着用者の体格に合わせて特注する高級な毛織物であるため、上流階級出身のループスには馴染みがあったのに対して庶民の出であるハルトはその存在すら知らなかった。

 

 「ならちょうどいい。この街なら織物職人の一人や二人ぐらいいるだろう」

 「えっ。何、職人に作らせるものなのか?」


 ループスは衣類品店の関係者に織物職人の所在を聞き出すと織物職人を探してマレーネの街を練り歩いた。ハルトはまだ見ぬタイツの正体知りたさにループスの後ろを追いかける。

 歩くこと数十分、ループスとハルトは織物職人がいるという建物にたどり着いた。


 「邪魔するぞ。ここに織物職人がいると聞いてやってきた」

 「いらっしゃい。仕事の相談かな?」


 ループスが先行して建物に入るなり要件を伝えると中にいた職人らしき男が早速話を伺いだした。どうやら話が分かる人物のようである。


 「単刀直入に伝える。俺とコイツが履けるタイツを各二着ずつ、計四着作ってもらいたい」


 ループスは手短に依頼内容を伝えた。職人はループスとハルトの姿を改めて見直し、少し考えるような素振りを見せた。


 「いくら出せる」

 「予算はそれなりに用意しているが相場がわからん。逆にいくらなら受ける」


 ループスは職人との価格交渉に入った。毛織物の相場に疎い彼女は職人の言い値になることも少なからず覚悟をしていた。


 「ざっと見繕ってお嬢さんたちのタイツ四着分ならざっと四万ってところだなぁ」

 「わかった。それなら……」

 「おい、ちょっと待て」


 ループスが交渉に応じかけたところにハルトが割って入った。彼女には価格のことでどうも引っかかるところがあった。


 「そのタイツって奴は何で作るんだ?」

 「基本的には羊毛だな」

 「羊毛で作るにしては高すぎる。そのタイツって奴を作るのにどれほどの量を使うのかはわかんねえけど、羊毛って確か一頭分で二万マナとかだったはずだぞ」


 ハルトはタイツの存在は知らなかったものの、牧場のあるプリモの町で育ってきたために羊をはじめとした家畜関係の相場にはそこそこ詳しかった。彼女の指摘によってかなり言い値を吹っ掛けられていることに気づいたループスは職人に疑いの眼差しを向ける。


 「三万だ。材料費にアンタの技術に出す分、あとは急ぎでやらせる分も加味してそこまでは出してやる」


 ループスは職人を睨みつけながら懐から出した三万マナを職人に押し付けた。吹っ掛けられているのは承知の上でそれでも頼もうと決めたのである。


 「吹っ掛けようとして悪かった。今回は二万で受けるからそれで許してくれ」


 職人は二人に詫びを入れ、ループスに押し付けられた三万マナのうちの半分を返すとタイツを作るためにハルトとループスの採寸を始めた。価格は当初の二分の一、相場相応で引き受ける結果になったのである。



 「お前ってたまに変な知識こと知ってるよな」

 「それはお互い様だろ?」


 職人の仕事場を出たハルトとループスは互いの持つ意外な知識に助けられたのを笑いながらタイツの完成を待つのであった。

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