アダン・エイルの恋路
その青年、アダン・エイルは思い悩んでいた。彼は今、ある少女に恋をしていた。その少女へ自分には想いを伝えるにはどうすればいいのかを考えていたが、これまで恋愛をしたことがなかったアダンにはその方法がわからなかったのである。
アダンはその答えを見つけるべく、冒険者ギルドにいる既婚の冒険者に相談を持ち掛けることにした。
「はぁ、好きな子と距離を縮めるにはどうすればいいか、ねぇ」
「はい。貴方ならその答えを知っていると思いまして」
アダンからの相談を受けた冒険者のアレックスは首を傾げた。彼はマレーネで妻帯者であり、十数年活動している熟練者の冒険者でもある。
「ちなみにその子はどんな子なの」
「ハルト・ルナールブランさん……最近この街にいるあの狐の子です」
アダンの意中の相手を聞いたアレックスは驚愕した。ハルトの存在は彼も知っていた。だが彼女の外見は年端もいかない少女そのものであり、青年のアダンとはあまりにも外見年齢がかけ離れていた。
「本当にあの子のことが好きなの?」
「はい。僕は本気です」
アレックスの確認に対してアダンは当然のようにそう答えた。
「確かにあの子は可愛いと思うけど……歳が離れすぎてるだろう」
「歳が離れてたら好きになっちゃいけないんですか?」
アダンの純粋な疑問にアレックスは何も答えることができなかった。アダンにとっては外見年齢の違いなど恋を阻む要素にはなり得ない。周りからどう言われようとそれが揺らぐこともなかった。
確固たる意志を感じ取ったアレックスはこの問答をやめて話を次に進めた。
「それはさておき、なんであの子のことを好きになったの」
「前にクエストでマレーネから少し外れた場所に行ったときにあの子に助けてもらったんです。その時にもう一目惚れで」
ハルトに好意を抱いた経緯をアダンは語った。リザードに返り討ちに遭いかけたところに救いの手を差し伸べてくれたあの時のハルトはアダンにとってはまさに運命の人であった。
「なるほどなぁ」
「教えてください。どうすれば女の子との距離を縮めることができますか」
アダンは至って真剣であった。アレックスはアダンとハルトの恋を進展させることに多少の背徳感と罪悪感を感じつつも彼の熱意に押されて自分の意見を伝えることにした。
「相手の好きなことを一緒にやってあげればいい。相手の熱意を受け入れてそれを否定せず、ただまっすぐに向き合って理解できればいい。そうすればきっと向こうも自ずと心を開いてくれるはずだ」
アレックスは相手をより理解するように努めることをアダンに勧めた。これは彼が自分の妻との距離を縮めるために使った手段でもあった。
アダンはこれまでハルトの気を引こうと動いたことはあったがこちらから歩み寄るようなことをしていないことを思い出した。それを鑑みれば微妙な距離感があるのも当然のことであった。こちらから歩み寄る動きを見せれば彼女も多少は心を開いてくれるかもしれない、そう考えると俄然やる気が出てきた。
「ハルトさんの好きなことって何でしょう」
「それは知らないな。お前なら直接聞けるだろうよ」
ハルトの趣味嗜好のことをアレックスが知るはずもない。彼女の趣味である機械いじりは基本的に室内で行われる上に大っぴらに語るようなこともしないために周囲に対する秘匿性が高い。周知しているのは常に彼女の隣にいるループスくらいである。
それに加えて今のハルトはアダンの好意に気を取られてからはその機械いじりも手つかずの状態になっており、それっぽい様子すらも見せていなかった。
つまりマレーネの冒険者たちは誰もハルトが機械いじりをしているところを見ていないのである。
「明日から実践してみます。ありがとうございました」
アダンはアレックスに頭を下げてお礼を告げると足早にどこかへ消えてしまった。アレックスはそんな行動力に溢れるアダンの若々しい姿にかつての自分の姿を重ね、懐かしむような温かい視線を向けるのであった。