嫌いとは言えない
夜間警備のクエストは特に何もなく夜が明けたことで平和に終わった。日が昇り、街の外に人が出始めたところでハルトたちはクエストの報告のために冒険者ギルドに戻ることにした。
「ふわぁ……」
ハルトは道中で大きな欠伸をした。眠気に押されて目はほとんど開けられず、ループスに背負われて移動をしているほどであった。今の身体になって身体能力こそ向上すれど体力はほとんど変わっていない都合上、活動を維持できる時間はあまり長くはなかった。
今まさに限界が来る直前といったところである。
一方でループスはハルトと比べるとフィジカル面では強かった。寝ずに一夜を明かしても眠気を感じないかといえば嘘になるが活動に支障をきたすほどではない。それこそハルトを背負って歩けるぐらいには余力があった。
「お疲れさまでした。こちらが今回の達成報酬になります」
クエスト達成の報告を終え、ループスは報酬金を受け取った。この時ハルトはすでに完全に目を閉じて寝息を立てている状態であった。
「ありがとうございました。どうも一人だと心細いものでして」
「次に俺たちを誘うならあんまり夜遅くなりすぎないやつにしてくれ」
ループスはハルトを背負ったままアダンに忠告すると踵を返して拠点にしている宿へと帰っていった。報酬はまあまあよかったものの、結果を見れば数時間退屈な時間を過ごした上に帰りはハルトのお守りをする羽目になり散々であった。せめてもの人付き合いのつもりでクエストに同行したがこんなことは二度と御免だと感じているぐらいである。
ハルトが目を覚ましたのは同日の夕刻のことであった。彼女は寝ぼけていて直前の記憶が曖昧になっており、なぜ自分がここにいるのか理解できていなかった。その間のことを知っているであろうループスもなぜかこの場にはいない。
髪や尻尾の寝癖もついたまま直されていないのを確認し、しばらくほったらかしにされていたのを確信したハルトはおもむろに鞄の中からブラシを取り出して寝癖を直しはじめた。
尻尾の寝癖を直している内にハルトは今朝のことをなんとなく思い出した。それと同時に昨夜のクエスト中のアダンとのやり取りのことも思い出す。
「やっぱ嫌いではないんだよなぁ……」
ハルトはアダンに対する自分の認識を確かめ直していた。彼に対しては不思議と嫌な気はせず、好きか嫌いかで言えばむしろ好きな部類である。しかしそれは彼を異性として捉えているというわけではない。
ハルトはその感覚が何かに似ているような気がしてならなかった。その感覚の正体が掴めそうで掴めない、それがまたもどかしく感じられた。
はじめは戸惑い動揺していた恋慕に対する答えが少しずつだが見出せそうでもあった。やはり自分は旅人であり、いつまでもここに留まることはできない。もし仮にアダンの想いを受け入れたとしても自分が優先したいのは旅であり、そこに彼を連れまわすことはしたくない。そんなことは他でもないループスが断固として拒否するはずである。
自分の信念を曲げず、かといってアダンの想いを否定しない。その折り合いを上手くつけられる答えをどのように導き出すか。
それを見つけるため、限られた時間の中でハルトは再び悩み思いつめるのであった。