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ケモミミTS魔法少女は何を見る~俺は天才だ!~  作者: 火蛍
9章 狐の恋慕
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デート代わりのクエスト

 (結局来てしまった……)


 翌日、ハルトはアダンに誘われる形でクエストに同行していた。もちろんループスも一緒である。そのクエストの内容は日没から夜が明けるまで黄金樹が野盗に荒らされないように警備することであった。

 クエストという名目ではあるが、誘い主のアダンにとってはデートのつもりでもあった。


 ハルトはアダンと二人で黄金樹の枝の上に乗って監視し、ループスはハルトたちの見ている方とは反対側に回って地上で見張りをしていた。黄金樹は非常に巨大であるために樹上からでも周囲全体を見渡すことはできず、最低でも二人は樹上から監視する役が必要である。

 それに加えてループスの得物では樹上から野盗を迎撃することはできず、樹上から銃撃ができるハルトと黄金樹の勝手に詳しいアダンが監視役として適任であった。


 黄金樹の夜間警備は危険なクエストがあまり入ってこないマレーネの冒険者ギルドの中では珍しく危険を伴うながらも稼ぎの良いクエストである。しかし、なし崩し的に約束を取り付けてしまったループスに巻き込まれる形で参加することになったのは不本意でならなかった。


 「あまりお気に召さなかったですか?」

 

 アダンはアダンでハルトがクエストに乗り気でないことには薄々勘付いていた。しかしその理由まではわからず、自分といるのが嫌なのではないかと考えてしまい不安になっていた。


 「いや、そういうわけじゃないけどさ……」

 

 ハルトはあまり気が乗らない理由を素直に言えなかった。アダンが自分に対して好意を寄せているのを一方的に知っていることがなんとも気持ち悪いからなどと言えるはずがなかったのである。

 

 「ふわぁ……」


 ハルトは明かりのほとんど灯っていない真夜中のマレーネの街を一望しながら大きな欠伸をした。ほとんど何もしなくてもいいとはいえ、ただ枝の上でぼんやりとしているのはただひたすらに退屈であった。


 「このクエストって暇なんですよね。よければ何かお話しませんか?」

 「ん、まあそれぐらいなら」


 黄金樹の枝の上でハルトとアダンは背中合わせをしながら語らい始めた。地上のループスも二人が何かを話しているのはわかったがその内容は聞き取れなかった。

 ループスは二人が大したことを話すことはないだろうと見切りをつけ、黄金樹の根元に腰を下ろして幹にもたれかかった。


 「僕を助けてくれたあの時、どうしてハルトさんとループスさんはあそこにいたんですか」

 「グラーシャに向かう旅の途中だったんだ。そこでたまたま通りすがったってだけ」


 アダンはハルトが旅人であることをここで初めて知った。それと同時に、自分が思いを伝えるためにはあまり時間に余裕がないことを悟る。


 「へぇ、グラーシャに。先はまだまだ長そうですね」

 「まあな。だからこの街にいるうちにいろいろ準備するつもりだ」

 

 旅の駄賃、物資、準備しなければならないものはいろいろとある。それらを蓄えるにはまだまだ時間がかかりそうである。旅の行き先であるグラーシャまでは単純な道のりが長いのに加えて周囲を雪原に囲まれた辺境の地であることもそれに拍車をかけていた。


 「だからそれまではここで冒険者やりながらのんびりとやっていこうかなって」

 「そうですか。それならもう少し長くいられそうですね」


 アダンはハルトと顔を合わせられる期間が多少は伸びるであろうと予見して喜びを露わにした。その声色から感情を感じ取ったハルトはここにいる限りずっとアダンの存在に縛られることを確信し、一刻も早くマレーネを去りたいと考えた。

 

 「……そうだな」


 しかし嫌気とは違う謎の感覚の正体がわからないハルトはただそう答えることしかできなかった。

 

 「ハルトさんとループスさんはどういう関係なんですか」

 「言ってなかったっけ?俺とループスはそれなりに長い付き合いの友人同士ってところだな」


 ハルトは自身とループスの間柄をアダンに明かした。マレーネの他の冒険者たちには語っていたがその場にいなかったアダンはそれを知らなかったのである。


 「友人……ですか」

 「そう。あくまで友人」

 

 あくまで友人関係であるということを強調したハルトは思い切った話題に踏み込むことにした。その話題とは今の自分に最も大きく影響を及ぼしていることであった。


 「アダン……お前には『好きな人』ってのはいるのか?」


 ハルトが切り出した話題とはすなわち『恋愛』のことであった。その答えがほぼほぼ自分のことであるとは分かった上でアダンがどうこたえるかが知りたかった。


 「好きな人……いますよ」

 「それってどんな?」

 「名前は出せませんけど、可愛くて、強くて、それに優しい。とても素敵な人です」


 名前こそ出さなかったものの、アダンからの自分に対する評価を聞いたハルトは恥ずかしくなって顔が熱くなった。アダンはハルトが好意にすでに気づいているとは微塵も考えておらず、逆にそれが羞恥心を加速させる。


 「いい奴じゃん」

 「ええ」


 

 黄金樹の上でハルトはアダンの意中の相手を直々に知ることとなったのであった。

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