好意と動揺
「な、ななな……ッ!」
ループスの推測を語られたハルトの顔はみるみるうちに真っ赤になっていく。これまで多くの人たちと仲を深めてきたがループスの推測通りだとすれば初めて異性として明確に好意を持たれていることになる。それはハルトにとっては初めての体験であった。
「冗談はよしてくれ。そういうのはお前の役回りだろ?」
「魅力を感じるところは外見に限らないっていういい例だろう」
ハルトは部屋着の裾を掴んでモジモジしながらループスに擦り付けようとした。ハルトからすればすらりと伸びた背にしっかりとメリハリのある体形をしているループスの方が異性としてはかなり外見的な魅力に溢れているように思えた。
だがループスはあくまでそれを否定し、魅力を感じる要素は外見によらないことを強調した。
「逆にお前気づいてなかったのか」
「わかんねえよ……どこで気づけるんだよそんなの」
「えぇ」
ハルトは他人からの好意に対してすさまじく鈍感であった。ループスも他人の感情の機微にはあまり目聡くはないが、そんな自分でも気づけるようなことがまったくわかっていないハルトの鈍さには呆れてため息をつくことしかできなかった。
「そもそもなんで俺に……」
「昨日助けに行ったときにアイツに声かけたのお前だろ」
「あー、なるほど……」
ハルトはアダンが自分に惚れこむ要素があったのかと尋ねるとループスは淡々とそれを指摘した。確かにリザードに襲われていたアダンに手を差し伸べたのはハルトである。ループスはリザードに止めを刺しただけであり、その時はアダンに関わっていない。
つまりその時にアダンはハルトに惚れこんだのである。
「自分が死ぬかもしれないってときにいきなり助けてくれた上に優しくされたら誰だって惚れるだろうよ」
「そ、そうなのか?でも……」
自分が好意を寄せられていることを未だに信じられないハルトは必死になってそれを否定しようとする。そんな中、ハルトに一つの妙案が浮かんだ。
「そうだ!アダンが俺のことをどう思ってるか探ればいい!」
ハルトはアダンの自身に対する感情を探ろうと画策した。例え好意を抱かれていたとしてもそれが恋愛的なものでなければそれでよかったのである。初めての事態に動揺してハルトは完全に錯乱していた。
まさかまさかの斜め上な発想に対してループスは訝し気な表情を浮かべる。
「あのさ……もしそれでアダンがお前のことを好きだってはっきりわかっちゃったらどうするつもりなんだ?」
ループスは自爆の可能性をハルトに指摘するとハルトは再び顔を真っ赤にして、黙って俯いてしまった。見切り発車で後のことなど何も考えていないことがまるわかりであった。
先の見通しが全くできないほどに冷静さを欠いたハルトの姿を見てループスは頭を抱えた。
「うるさいうるさい!今日は寝る!」
ハルトは動揺が収まらないままループスの言葉を遮るように喚きたてると耳を伏せ、布団にくるまってベッドの中で丸くなってしまった。
(大変なことになったな)
ループスはハルトに起こった初めての事態を俯瞰しながらハルトの尻尾が布団越しにもぞもぞと動いているのを眺めるのであった。




