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ケモミミTS魔法少女は何を見る~俺は天才だ!~  作者: 火蛍
9章 狐の恋慕
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観光名所、黄金樹

 マレーネの街に入ってから一夜が明けた。久方ぶりの温かい食事とベッドにありつくことができたハルトはすっかり上機嫌になっていた。

 

 「今日はマレーネの街を一通り回ってついでに冒険者ギルドを見に行くぞ」


 ハルトはすっかり観光気分であった。元々マレーネにはグラーシャまでの中継地として訪れたのであり、ここ自体に目的があるわけではない。だがせっかく訪れたのだから何か思い出に残るような体験をしておいた方がいいだろうというのが彼女の計らいであった。


 「なあなあ、この街は何が有名なんだ?」

 

 ハルトは道行く人にマレーネの名物を尋ねた。人々は獣の耳と尻尾のついた少女の姿に驚かされつつも素直に質問に応じた。


 「この街には千年黄金樹っていう大きな木があってね。ほら、アレ」


 通行人はそういうととある方を指さした。その指の先には建物よりも高くそびえ立った金色に輝く樹木があった。

 遠方にあるにも関わらず、その姿をハルトとループスはばっちりと確認することができた。


 「へぇー。綺麗だな」

 「そうでしょう。近くで見るともっときれいですよ。あの木にはある言い伝えがあって……」

 「ありがとな!ちょっくら行ってくる!」


 通行人の解説を聞くことなくハルトは黄金樹の方へ向かった。伝承を聞くのは嫌いではないがそれよりも黄金樹をより間近でみたいという欲求の方が大きかったのである。


 「悪いな。アイツはああいう奴なんだ」


 ループスは話を切られた通行人に詫びを入れるとすぐにその場を後にしてハルトの後を追いかけていった。

 

 「ここは賑わってんな」


 先に黄金樹にたどり着いていたハルトは黄金樹の下の人々の賑わいを眺めていた。黄金樹の周りにはどうも若い男女の番が多いように見受けられた。

 

 『あの木にはある言い伝えがあって……』


 声をかけたマレーネの通行人が話そうとしていたことの切り出しがハルトの脳裏を過った。


 「いや、まさかな……」


 ハルトは一瞬思い浮かべた話の先を自分で否定した。まさか黄金樹にまつわる伝承が縁結びだとは信じたくなかったのである。そういう話は嫌いではないがもっとスケールの大きな伝承を期待していたばかりについ否定的になってしまった。


 「なあハルト、この黄金樹の下で愛を誓い合った男女は末永く結ばれるそうだ」


 ハルトが必死になって否定しようとしていた予想は後から合流してきたループスによって木っ端微塵に打ち砕かれた。どうやらどこかでそういった話を確認してきたようである。


 「縁結びねぇ……」


 黄金樹を見上げながらハルトはあることを考えていた。それは自らの恋愛に関することであった。


 「俺たちさ、もし恋愛するなら男と女のどっちを好きになればいいと思う?」

 

 ハルトは黄金樹を見上げたままループスに問いかけた。


 「ほら、元々俺たち男だったじゃん?でも今は女の子だからさ、よくわかんなくて」


 ハルトが語る通り、彼女は今は少女の姿をしているが元は男であった。最初から同性が好きだったということもなかったため、このままいくと女性の身でありながら女性が好きということになってしまうのである。

 

 「お前的にはどっちを好きでいたいんだ?」

 「そりゃあ元々女の子が好きだからそのまま女の子を好きでいたいけど……でもそれだと変に思われないか?」

 

 己の性的指向についてハルトは大いに悩んでいた。異性との恋愛が普通であるという自分の中の常識と相反することもできず、女になったからといってすぐに男を好きになることもできなかったのである。ループスもハルトと同じ境遇であるが故に迂闊なことは言えなかった。


 「冒険者ギルドに行くぞ!ここにいるとおかしくなりそうだ!」


 悩みや迷いを強引に掻き消したハルトは行き先を変えてマレーネの冒険者ギルドへと向かった。あまり深く物事を考えるのが好きではない彼女にとって一生付き合っていくことになる性的指向の問題はあまりにも難しいことであった。


 

 後にそれが自身をさらに大いに悩ませることになるのをこの時のハルトはまだ知る由もないのであった……

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 性的嗜好はいわゆる性癖のことで、 好きになる相手の性別のことは性的指向と言います……。
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