間一髪の人助け
今回から第九章が始まります。
ハルトに女の子らしいイベントがあったりなかったり……?
グラーシャに向かう道中、ハルトとループスは旅の中継地にできそうな街を探していた。プリモを離れてから早十数日、ベッドの寝心地が恋しくなる頃であった。
「近くの街まであとどれぐらいだー?」
「さぁな」
平原を歩きながらハルトとループスは何度も繰り返したやり取りをまた交わす。
二人は魔法で半無限に水を生成し、火を起こすことができるため旅の途中で衛生や水不足に悩まされることはない。だが食料は魔法に頼らずに補給しなければならず、底を突きかけると野草を採取したり野生動物を仕留めたりでしのぐことも多々ある。
今はまさにその局面に差し掛かろうとしており、ハルトとしてはすぐにでも街に入ってまともな料理にありつきたかった。
そんな中、ハルトの耳に物騒な音が入り込んできた。遠方で何かと金属がぶつかる音、それに混じって人の声も聞こえる。
状況はどうあれ、人についていけば近くの街にたどり着くことができる。そう考えたハルトはすぐに音のした方へと向かっていった。
「いきなりどこ行くんだお前は」
「今、人の声が聞こえた。街に行けるかもしれない」
跳ねるように駆けるハルトをループスは追いかける。だがほんの十数秒程度でハルトは足を止め、右腕を水平に上げてループスを制止するような仕草を見せた。
「誰かが襲われてる」
ハルトの耳に届いた声。それは人の悲鳴であった。救援に入るべくハルトは懐から銃を抜き、スピードローダーを使って弾を最大まで装填する。ループスも不測の事態に備え、剣の柄に手をかけた。
二人が駆けつけ、声の主が視界に入った時には大型のリザード相手に剣一本で辛うじて抵抗している青年の姿があった。
「待て、こういう時は俺の方が向いている」
ハルトはループスを待機させた。いくらループスの魔剣が一撃必殺の代物とはいえ、身体が大きく非常に素早いリザードが相手では身体能力を活かしづらい。それどころか毒など持っていようものなら返り討ちの可能性すらある。よって遠距離から安全に救援できる自分の方が今の状況への適性は高いと判断したのである。
ハルトは銃を両手で構えるとリザードに向かって魔弾を撃ち込んだ。弾は一撃でリザードの胴体を貫通して吹っ飛ばす。ハルトはすかさず追撃でもう一発撃ち込み、今度は下半身を貫いて身動きを封じ込めた。
「ループス。後は頼んだ」
リザードの息の根を止めるのをループスに任せ、ハルトは青年の救援に向かった。生命力の高いリザード系の生物は身体の一部が欠損していようとも活動を続行することがある。よって完全に息の根を止めるまで油断はできないのである。
ループスは剣を抜くと白熱化した刃でリザードの四肢と首を刎ね飛ばし、完全にその動きを止めた。あとは勝手に命が尽きるのを待つのみである。
「おい、大丈夫か!?」
ハルトは腰を抜かして倒れていた青年に声をかけた。青年は放心状態になってはいたものの意識はちゃんとあり、命に別状はない。だがあと一歩でリザードの爪と餌食になっていたところであった。
「あ、ありがとうございます……」
ハルトに声をかけられた数秒後、ようやく自我を取り戻した青年はハルトに感謝の言葉を述べた。意思の疎通が取れることを確信したハルトはいろいろと尋ねたいことがあった。
「アンタ、見たところ冒険者だよな?どこの街から来たんだ?」
「えっ、あぁ、マレーネの街ですよ。ここからそう遠くない場所です」
近くに街があるという情報を引き出したハルトは目を輝かせた。望んでいたものが思いがけず近くにあったことに大いに喜んでいた。
「そこまで案内してくれよ。俺たち旅人でさ、宿のある街を探してるんだ」
ハルトは青年にマレーネの街までの案内を頼んだ。彼女はまだ見ぬ街を訪れるのが楽しみで仕方がなかった。
「わかりました。ではマレーネまで僕が案内します」
こうしてハルトとループスは次なる街への足掛かりを掴んだのであった。