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ケモミミTS魔法少女は何を見る~俺は天才だ!~  作者: 火蛍
2章 子攫い女
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子供から見た子攫い女

 昨日と同じ広場のベンチに腰を下ろし、さっき受け取った報酬を眺めながらハルトはその使い道を考えていた。これを元手にどこまで行けるだろうか。

 などと考えていると後ろからこちらに忍び寄る足音が聞こえてきた。警戒したハルトが振り向くと、そこには昨日たわむれた子供たちのうちの一人の姿があった。

 

 「なんだ、昨日のガキの一人か」

 「すっげー!なんでバレたんだ?」

 「足音が丸聞こえだ」


 ハルトに先に声をかけられて少年はたいそう驚いた様子を見せた。どうやら忍び足に自信があったらしい。しかしハルトの聴覚の前では無力であった。


 「何の用だ?」

 「その尻尾、触らせてくれよ」

 「えぇ……」


 少年はまだ諦めていなかった。自力で敵わなくても挑戦し続ける姿にはむしろ感心さえ覚えた。

 ハルトはそんな少年に取引を持ち掛けることにした。


 「俺の知りたいこと教えてくれたら触らせてやってもいいぜ」

 「マジか!?どんなことだ?俺が知ってることならなんでも教える!」


 『コイツどこまで必死なんだ』とハルトは内心思いつつも話を続けた。


 「子攫い女のことを知りたいんだ。いくつか聞きたいことがあるから全部答えろよ」

 「よし来い!」

  

 ハルトが少年とやり取りをしていると、その様子を見つけた子供たちがまた集まってきた。これはマズいことになった。もしかすると以前のようにもみくちゃにされる可能性がハルトの脳裏を過った。


 「何の話してるのー?」

 「子攫い女のこと教えたらこのお姉ちゃんが尻尾触らせてくれるんだってー」


 少年が言いふらしたことによって周囲の子供たちが一斉に目を輝かせた。案の定な展開にハルトは頭を抱えた。だがこれは逆に彼女にとってはたくさんの情報を仕入れるチャンスでもあった。


 「本当?」

 「本当だぞ。でも一つ条件を出す」


 ハルトは昨日と同じように条件を出した。しかし昨日とは違って純粋な勝負ではない。よほどの無理難題でもない限りはイケるだろうと子供たちは期待を寄せた。


 「俺にとって一番欲しい情報をくれた奴一人だけに触らせてやる」


 ハルトはそう言うと尻尾を手前に手繰り寄せ、紙縒りのように揺らした。目の前に出された純白の輝きを放つ毛並みのそれに子供たちは息をのむ。


 「まず一つ。この中で子攫い女を実際に見たことがある奴はいるか?」


 ハルトからの質問に子供たちは言葉を詰まらせてしまった。誰も見たことがないのだろうか。ハルトはさらに掘り下げることにした。


 「誰も見たことないのか?」

 「ないよ」

 「たぶん、町の誰も見たことないと思う」


 子供たちは揃いも揃ってその姿を見たことがないらしかった。子攫い女はやはり空想の産物なのだろうか。でもなぜ町の人々が存在しないものを恐れているのかが不可解だった。


 「じゃあ。子攫い女がどんな見た目をしてるか知ってる奴はいるか?」


 もし恐れられる理由があるとしたら、それは具体的なイメージ像があるからに違いない。そう考えたハルトは子供たちからそのイメージを集めることを試みた。


 「髪が黒くて長い!」

 「俺は短いって聞いたことあるぞ!」

 「背が高くておっぱいが大きい!」


 姿を見たことがないは言うものの、具体的なイメージ像は持っているようであった。細かい違いはあるものの、そのイメージは大方似通っている。

 『黒髪で背が高く、胸が大きい女性』であるというのが子供たちの間での子攫い女の姿に関する共通認識だった。


 「なるほどな」


 ハルトの近くにそのイメージにかなり合致している女性がいた。フィリアだ。

 彼女は背が高く、黒髪で胸が大きい。やはり子攫い女の正体はフィリアなのだろうか。


 「みんなは町の誰かが子攫い女だとしたら誰だと思う?」

 「喫茶店のおばさん!」

 「喫茶店のおばさん!」


 子供たちは口を揃えてフィリアのことを子攫い女の正体ではないかと考えていた。誰も実際にフィリアが子供を攫っているのを見たことがない。でも子供たちはそうだと疑っている。

 ハルトの中で不可解さがさらに深まった。


 「なんでそう思うんだ?」

 「お母さんに『子供だけであの喫茶店に入っちゃいけない』って言われてるから、そうなんじゃないかなって」

 「それにあのおばさんには自分の子供がいないし」

 「前に町の通りで見たことがあるけど、すごく寂しそうに広場の方を眺めてた」


 子供たちの言葉から思わぬ形でフィリアの人物像が掘り下げられた。

 確かにフィリアは独身である。しかし彼女の家には寝室が二つあった。独身の女性の家に寝室が二つも必要だろうか。元々あの家には彼女以外に誰かがいて、それを子供たちが知らないだけなのではないだろうかとハルトは勘ぐった。


 「よしわかった。俺が喫茶店のおばさんが子攫い女なのかを確かめに行く」


 ハルトは子供たちの前で堂々と啖呵を切った。とはいっても日が暮れてからフィリアの家に立ち寄るだけなのでそこまで気負いすることでもなかった。


 「マジで!?」

 「本当にやるの?」

 「ああ、やるったらやる」


 ハルトはフィリアが本人の知らないところで勝手に悪い印象を抱かれているのは些か不憫であると感じていた。それに彼女が潔白であることを証明できれば子供たちが疑うこともなくなって多少なりとも宿泊に対するお返しになるのではないかとも考えた。


 「ねえ。ところで誰の話が一番よかった?」

 「うーん……誰が一番か迷うな」


 急に話を変えられてハルトは困ってしまった。話の内容がどれも似たり寄ったりで決定的と言えるものがなかったのだ。強いてあげるとすれば最初に子攫い女の外見に触れた子供の話であろうか。

 子供たちはハルトの決定を今か今かと待ち焦がれていた。


 「そうだな……じゃあ一番積極的に情報をくれたお前にしよう」


 ハルトはそれなりに考えた末に最初に自分に接触した少年を選んだ。なんだかんだでこちらの質問に真っ先に口を開いていたのは彼であった。よってその積極性を買うことにした。


 「よっしゃ!」

 「見せ物じゃないからな。ほら、外野は散った散った」


 ハルトは他の子どもたちを早々に追い返すと少年に背を向けて広場の地べたにぺたんと座り、その大きな尻尾を差し出すように揺らした。


 「本当にいいんだよな?」

 「二言はない。でも、その……結構時間かけて手入れしてるからできるだけ優しく触ってくれ」


 ハルトは一言注意を促した。耳と尻尾の毛並みを整えているのは紛れもない彼女自身である。彼女が自分の尻尾を触らせることに抵抗を感じるのは手入れの手間が増えるからでもあった。しかし背に腹は代えられない。


 「んっ……!」

 「すげー。ふわふわでやわらけー」


 少年はハルトの尻尾の手触りに夢中になった。ふわふわの毛並みは触れる指先に力を入れるとどこまでも沈んでいきそうなほどであった。彼が尻尾を撫でるたび、ハルトの背筋にはゾワゾワとした感覚が走った。やはり自分で触るのと他人に触られるのとでは何かが違う。

 それからしばらくの間、ハルトは少年に弄られて悶えたのであった。

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