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ケモミミTS魔法少女は何を見る~俺は天才だ!~  作者: 火蛍
8章 プリモへの里帰り
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ケモミミ少女と牧場の人たち

 ハルトとループスがプリモに滞在し始めてから数週間。はじめはハルトたちを警戒していたプリモの人々は徐々に彼女たちの存在を受け入れるようになっていた。ハルトはセシルと共に人形の修理や魔力補充を請け負う内に工房のマスコット的な存在となり、ループスは子供たちの剣術の教師として人気を博していた。特にループスはその容姿と剣技を一目見ようと大人たちも参観に来るほどであった。

 だがそんな中で未だ二人のことを受け入れようとしない人たちもいた。それがプリモの牧場の関係者である。


 ある日のこと、ハルトは依頼されていた新しい人形を届けるために一人牧場を訪れていた。仕事をしているときは基本的に工房にこもりきりになるレオナ、その工房の窓口役として離れられないセシルに代わってハルトが配達に行くことは特別珍しいことではない。昔の記憶通りの地理情報で目的地にたどり着けることから配達はループスよりもハルトの方が適性の高い仕事であった。


 『プリモ牧場』

 ハルトが足を止めた場所にはそう書かれた如何にもな看板があり、その周辺からは牧草の香りが広がっていた。

 ハルトは人形を背負って牧場の中へと足を踏み入れた。人形はそこそこの重さがあるものの、ハルトが背負って移動できる程度の重量であった。


 「すみませーん!人形工房の者ですが頼まれていたものをお届けに上がりましたー!」


 ハルトは放牧地から牧場の人に知らせるように声を張り上げた。本来ならば直接牧場の施設内まで入ればいいだけのことなのだがハルトにはそれを避けなければならない理由があった。

 声掛けから数秒後、牧場の建物内から人が一人出てくるとハルトの方へと向かっていった。


 「これ、頼まれていたものです」

 「ありがとうございます。ご苦労様です」


 牧場の関係者の男はハルトから人形を受け取ると簡単な社交辞令だけしてそそくさと戻って行ってしまった。ハルトが牧場の奥に入らない理由、それは関係者から忌避されているからであった。

 忌避される理由はハルトにも自覚があった。彼女が『狐』だからである。肉食動物の狐は牧場にとっては切っても切れない縁の害獣である。その狐そのものの耳と尻尾を持つハルトが牧場関係者から避けられるのは仕方のないことであった。

 

 しかし全員が全員自分のことを避けているのだろうか。疑問を抱いたハルトは姿を消してこっそりと牧場関係者の声を聞くことにした。影の中に身を隠し、耳だけを出して外の音を探る。聴覚に優れる彼女にはそれだけで十分であった。


 「今日の工房からの配達、あの狐の子が来ましたよ」

 「そうか。どう対応したんだ?」

 「人形だけ受け取って、簡単な挨拶だけして終わりです」

 

 牧場の従業員のやり取りが聞こえてきた。自分の話をしているのがわかったハルトは息を殺して盗み聞きを続けた。


 「かわいい子だと思うんだけど、仲良くするのは牧場長が許してくれないからなぁ」

 「仕方がない。そうしなきゃここで働けないからな」


 やり取りを聞いている限り、牧場で働く者全員がハルトに冷たいわけではないようである。どうやらそこには牧場長が関係しているようである。

 他人に思想を押し付け、強引に従わせてしまう牧場長のやり方にハルトは怒りを通り越して悲しさを覚えてしまった。これほどまでに思想が強いと相手に理解してもらうことすらできない。自力で不当な評価を覆すことができないことに対し、やり場のなくなった悲しみを抱えたままハルトはそっと牧場を去っていくのであった。


 「ただいま」


 配達を終えたハルトは自宅へと戻った。セシルとレオナは普段はピンと立っているはずのハルトの耳と尻尾が伏せられていることに違和感を覚えた。


 「元気なさそうだが何かあったのか?」

 「え?まぁ、ちょっとな」


 正直に理由を話せないハルトは言葉を濁した。彼女の振る舞いからセシルとレオナの二人はすぐに牧場側に何か問題があったのだろうと察した。

 

 「今からちょっと牧場に行ってくる。工房の方はお願い」


 何かを思い立ったレオナはその場にいた二人にそう言い残すと肩をすくませながら単身外へと飛び出していったのであった。表情こそ見えなかったもののその振る舞いは明らかに怒りを覚えている様子であった。



 「止めに行かないのか?」

 「ああなった母さんを止められるわけないだろう。それにな、本当は父さんだって牧場に文句を言いに行きたいぐらいだ」


 自分の子が謂れのない不当な扱いを受けることはセシルとレオナにとっては耐えがたいものであった。

 きっと自分の分までレオナは文句を言うだろう。セシルはそう信じてレオナの言いつけを守り、ハルトと二人で彼女が戻ってくるのを待つのであった。

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