友人以上の何か
「で、君たちはコイツに何を吹き込まれたんだ?」
ループスは背中にしがみついていたハルトを引っぺがし、片手でつまみ上げると子供たちに尋ねた。
「吹き込まれたっていうかなんていうか……」
「なんていうか?」
「昨夜出た人狼は悪い奴じゃないから一度会ってみろって」
子供たちがループスにそう伝えるとハルトがほら見ろと言わんばかりの表情でループスの顔を覗き込んだ。おまけで解放しろというアピールの如く尻尾でループスの腕をペシペシと叩く。
やれやれといった表情をしながらループスが手を離すとハルトは軽い音と同時に着地した。
「人狼のお姉さんと狐の人は本当に友達なの?」
「もちろん」
「えっ」
子供たちからの純粋な疑問をハルトが肯定するとループスは違うと言わんばかりに声を上げた。
「えっ」
予想と違う反応が返ってきたことに対してハルトは思わずオウム返しをする。どうやら二人の間には微妙なズレがあるようだった。
「俺のことなんだと思ってるの?」
「大事なパートナー」
「なっ……!?」
ハルトなら顔から火が出るようなことをループスは臆せず堂々と発言してみせた。殊ハルトに関することになるとループスは理性が飛ぶ傾向にある。ハルトがループスのことを友人だと思っているのに対し、ループスはハルトに対してそれ以上の感情を持っていた。
「いまさら何を言うんだ。俺たちは義理の姉妹になった関係じゃないか」
「誤解を招くような言い方をするな!」
いきなり痴話喧嘩を始めたハルトとループスの姿を目にした子供たちは『この人たちは一体何をしているんだ』と思わずにはいられなかった。それと同時に悪い人ではないということを感覚的に理解することができ、このまま二人の様子を眺めているのもいいかと考え観察を続けた。
「というわけでコイツは悪い奴じゃありません。お父さんお母さんにもコイツを見かけても避けたりしないように言ってあげてくれないか?」
「あっ、はい」
ループスと痴話喧嘩をしながらハルトが唐突に子供たちにそう言い聞かせると子供たちは反射的にそう返事した。
そして気が付けばハルトとループスの前から子供たちの姿はなくなり、そこには二人以外はいなくなっていた。
「なんでこうなったんだっけ」
「さぁ?なんでだろうな」
ふと我に返ったハルトとループスは呆然と周囲を見渡していた。気が付けば本来の目的をすっかり忘れていた。
そして翌日からプリモの町の人々がループスを忌避することはなくなったのであった。




