表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ケモミミTS魔法少女は何を見る~俺は天才だ!~  作者: 火蛍
8章 プリモへの里帰り
146/383

強引な押しかけ

 その日は朝からアイム家の人形工房が騒がしかった。なにやらセシルとレオナが集団への応対に手こずっているらしい。

 そのやり取りを聞きつけたハルトはまだ眠っているループスを置き去りにして一人様子を見に駆けつけた。そこには昨日なぜかボロボロにされていた男と同じような格好をした連中が多数押し寄せてきていた。


 「こちらが提示する条件を認めてくださらないならこの依頼はお受けできません!」

 「黙れ黙れ!このぼったくり職人め!」


 レオナを罵倒する心ない声に腹を立てたハルトは銃を手に取るために一度自室へと引き返した。下が騒がしいにも関わらずベッドで眠りこけるループスをハルトは再び置き去りにし、工房へ戻ると自身に注意を引きつけるように空砲を撃ち放った。空砲は集団のガヤを掻き消すほどの音を立て、周囲に刹那の沈黙をもたらした。

 ほどなくして周囲の視線が一斉にハルトへと集まった。


 「何のつもりだ」

 「そっちこそ。いきなり押しかけてきて無理やり人形作れって言うのは筋が通らないんじゃねえか?」


 威圧を仕掛ける軍人に怯むことなくハルトは啖呵を切った。


 「黙れ!女子供であろうと我々に盾突くようであれば容赦はせんぞ!」


 軍人が先手を打とうとするがハルトはすかさず引き金を引き、軍人たちの隙間を通り抜けるように弾を発射した。魔弾は突風のように通り抜け、工房の壁をぶち抜くと魔力の余波でその場にいる全員に痺れるような感覚を与えた。


 「わざと外してやった。次は命中させてもいいし、もっと威力を上げてやってもいい」


 ハルトは戦慄する軍人たちにそう言い放つと銃口を真正面に向け、その先にいる軍人一人に照準を合わせた。その発言に誇張や偽りはなく、セシルとレオナを守るためであれば殺傷力の高い弾を直撃させることも厭わないつもりであった。


 「今なら直撃してもこの程度で済むぞ」


 見せしめと言わんばかりに引き金を引くと目の前の軍人に魔弾を送り込んだ。弾は軍人の左脇腹に直撃し、身体と意識を同時に吹き飛ばした。もちろんただの見せしめであるため、殺傷力はかなり抑えてある。


 軍人たちは目の前の存在に対してかなり狼狽えていた。一見すれば年端もいかない少女が自分たちを圧倒できる火力を持った武器を一人で携行しているという事実がなんとも受け入れ難かった。


 「これは最終警告だ。ここから去れ」


 銃口から狼煙のように魔力を漂わせながらハルトは軍人たちに警告した。これもすべて両親を守るためである。その場にいた軍人たちの仕切り役と思わしき男はハルトが本気であることと銃の最大火力が計り知れないことを考慮し、全員に撤収のサインを出した。

 工房の出入り口までの通り道を空け、ハルトはレオナたちと合流すると軍人たちが一人残らず退散していくまでの銃口を向け続けた。


 一人残らず撤収し、工房にいる人間が自分たちだけになったところでようやくハルトはようやく銃を下ろした。リボルバーを露出させ、排出された空薬莢が音を立てて工房の床に落ちる。

 セシルとレオナはハルトがずっと隠し持っていたそれをまじまじと見つめた。


 「大丈夫だった?」

 「一応は……アルバス、それは?」


 セシルはハルトに彼女が持っている銃について尋ねた。銃はハルトが完成まで秘密にしていたオリジナルの発明であり、その存在は両親すらも知らなかったのである。


 「魔法の詠唱を省略するための道具……のつもり」

 「それで軍人の人を一人……」

 「殺してない!」


 セシルの言葉を遮ってハルトは軍人の命を奪っていないことを主張した。銃はハルトにとっては『護身用の道具』であって『人殺しの道具』ではない。人に向かって撃つときは殺傷力のない弾を選んでいるつもりである。

 しかしハルトのポリシーを知らないセシルとレオナには軍人を射殺したようにしか見えなかったのである。


 「ふわぁ……おはようございます」


 ハルトとセシルが問答をしている最中、ようやく目を覚ましたループスが欠伸をして寝ぼけ眼を擦りながら二階から降りてきた。ループスの登場はハルトにはまたとない助け舟であった。

 

 「……どういう状況だ?」


 状況が呑み込めず呆然とするループスにハルトは事情を説明した。自分が寝ている間に何が起こていたのかを把握したループスはハルトの肩を持った。


 「というわけで、コイツはこれまで誰一人としてこれで人の命を奪うようなことはしていません」


 ループスからも擁護されてようやくハルトはセシルたちからの理解を得ることができた。だがそれはそれとしてループスは別のことを憂いているようであった。


 「モーリオの軍人ってことはまたここに来るな。あそこの軍はしつこいことで有名だ。要求が通るまでこういうことを続けてくるだろうな」

 

 モーリオの内情を知るループスは今回のような事件が今後再度発生する可能性を懸念した。相手は普通の人間とは言え戦闘訓練を受けた軍人、魔法使いのセシルとレオナと言えど物量任せにひっきりなしに攻められたらひとたまりもない。


 「どうすれば……」

 「解決策はある。ここに滞在しているモーリオの連中に俺たちには絶対勝てないということを知らしめてやればいい」


 ループスは実力行使を提案した。上流階級の出身であることが多いモーリオの軍人は武力を持たない庶民階級の言葉に耳を貸さないことがほとんどである。よって実力行使で短期決戦を仕掛けるのが望ましかったのである。


 

 「奴らは早ければ今日の夜にでも仕掛けてくるでしょう。今日は工房を畳むのが賢明です」


 ループスの提案を信じ、アイム家の魔法使いたちは四人がかりでプリモに滞在するモーリオの軍を迎え撃つことを決定したのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ