どっちがお姉ちゃん?
その日の夜、アイム家の食卓ではレオナがやけにニコニコしていた。ループスを実質的に自分の娘のように扱っていることが楽しくて仕方がなかったのである。
「やけに楽しそうじゃないか」
「ええ。だってうちの子が一人増えたんだから」
レオナはループスを我が子として受け入れる気満々であった。例えそれが冗談であったとしても、母親がいないループスにとってはとても喜ばしい言葉であった。
「ところで二人はどっちがお姉ちゃんなワケ?」
セシルの何気ない一言にハルトとループスは耳をピンと立てた。二人とも『自分の方が上』と信じてやまないためである。
「俺だな」
「俺だ」
ほぼ同時にそう主張したハルトとループスは立ち上がって互いの顔を睨み合った。どちらも自分が上だという意思を譲るつもりはない。
「俺の方が身体がデカいから俺の方がお姉さんだ」
「いいや、この身体になったのは俺の方が先だから俺だね」
ループスは体格差から、ハルトは身体が変化した時期の違いからそれぞれ自身が姉であると主張した。セシルとレオナにはいがみ合う二人の姿が微笑ましく見えていた。
「父さんと母さんはどっちがお姉ちゃんだと思う?」
ハルトから唐突に話を振られたセシルとレオナは困ってしまった。唐突に両親が巻き込まれるのも兄弟げんかそのものであった。
セシルとレオナはどうにかことを穏便に済ませようと試みた。
「双子っていうのはダメ?」
「それは流石に無理があるだろう」
セシルの提案にハルトが直々に突っ込みを入れた。毛色も違えば体格差もあまりにも大きい。双子というにはかなり無理があった。
すっかり困り果てたセシルはレオナに判断を委ねることにした。
「母さんはどう思う?」
「お母さん的にはアルバスの方がお姉ちゃんです」
ハルトから尋ねられたレオナは迷いなくハルトの方が姉であると断定した。彼女の中にはそう言い切れるだけの理由があった。
「理由を説明します。お母さんのお腹から生まれて我が家に最初に来たのがアルバス、その次に家に来たのがループスちゃん。家族になった順番から考えてアルバスがお姉ちゃんです。お母さん権限でそう決定します」
『お母さん権限』それはレオナが自分の意見を押し通そうとするときに使用する決まり文句である。これを持ち出した場合はそれがアイム家での決定となるのが鉄則であった。
「というわけでこの話はこれでおしまい。アルバスはこれからちゃんとお姉ちゃんとして相応の振る舞いをするように。特に妹をいじめたりするようなことはダメだからね」
レオナは家庭内での権限を行使してハルトに地位を与えると同時に釘を刺すように忠告した。自らの地位に溺れやすいハルトの性格の扱い方もレオナには手慣れたものであった。
こうして、アイム家の中でハルトとループスは義姉妹となったのであった。