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ケモミミTS魔法少女は何を見る~俺は天才だ!~  作者: 火蛍
2章 子攫い女
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フィリアと語らう

 「おぉ……」


 風呂上り、髪と毛を乾かしたハルトは鏡を見て感嘆のため息を漏らした。髪はサラサラ、耳と尻尾の毛並みも綺麗に仕上がっていた。尻尾を揺らしてみるとその毛が光輝いて見えた。

 手触りも自分がやるよりふわふわであった。自分でも無限に触っていたいし、これなら子供たちが自分の尻尾に惹かれるのも納得できた。

 フィリアの腕は本物だ。これなら彼女に朝のブラッシングを任せても……


 「いや、それはダメだな」


 ハルトは揺れ動きかけていた心を抑え込んだ。流石にそこまでして他人に自分の尻尾を触らせることに抵抗が無くなってしまうことを警戒していた。

 

 「ねえハルトちゃん?」


 フィリアがハルトに貸している部屋を尋ねてきた。

 やはり彼女は距離感がどこかおかしい。しかし自分が彼女の好意に甘えているのも事実なので口には出さなかった。

 

 「なんだ?」

 「おばさん、ハルトちゃんのこともっと知りたくてね。よかったら旅のお話とか聞かせてもらいたいなーって」


 ハルトは困ってしまった。まだ旅を初めて二日目故に語れるようなことがなかったのだ。ここは素直に言っておいた方がいいだろう。


 「実はまだ旅を始めて二日目だから話せるようなことなくてさ。他に聞きたいことがあればその話をしてもいいぜ」

 「そうなの。じゃあねー……」


 素直な白状を受けたフィリアは落胆するどころかむしろ好感度を上げたような素振りを見せた。ハルトはますますフィリアの素性が見えなくなった。


 「じゃあ、ハルトちゃんの家族のことを聞かせて」


 フィリアが振ってきたのは無難な話題であった。これならこちらも特に気兼ねすることはない。

 ハルトは自分の家族のことを語ることにした。


 「俺の家族は両親と俺の三人、両親はプリモの街に住んでる魔法使いだ」


 ハルトの両親は魔法使いである。決して裕福でもなければ由緒も血統もない凡俗な家庭であった。


 「へえー、じゃあハルトちゃんも魔法使いなの」

 「そういうことになるな」

 「プリモの街ってここから離れてるけど二日でどうやってここに来たの?」

 

 ハルトの故郷であるプリモは現在地からかなり離れた場所であった。馬車を使って移動したとしても少なく見積もって五日はかかる距離だった。

 

 「実は旅に出る直前まで隣町の魔法学校の寮に下宿してたんだ。そこを飛び出して旅を始めたってワケ」


 ハルトは決して嘘は語っていない。しかしフィリアにはいささか理解に苦しむ要素があった。


 「魔法学校って普通の魔法使いじゃ入るのも難しいところって聞いたことがあるけど、そんなところをあっさりやめちゃったの?」


 ハルトはもうごまかしがきかなくなった。

 フィリアの言う通り、ハルトが在籍していた学校は所謂名門校である。そこを事実上の退学をした理由を正直に語っても信じてもらえるとは思えない。

 だがここはダメで元々、ハルトは意を決して経緯を語ることにした。 


 「おばさん、今から俺が話すことを疑わないでいてくれるか?」

 「もちろん。どんな話でも信じてあげる」


 ハルトの前置きをフィリアはあっさりと受け入れた。これで心置きなく語ることができる。ハルトは自分の正体諸々を含めた話をすることにした。


 「実はさ、俺はついこの前まで普通の男の子だったんだよ」

 「えっ?」


 いきなりの告白にフィリアは固まった。それも当然のことである。目の前にいる狐の耳と尻尾が生えた少女がついこの前まで普通の男子だったとは考えられないのだから。


 「普通の両親から生まれた普通の男の子だったんだ。だから俺の両親にこんな耳と尻尾はついてない」


 「学校にいたころの成績はかなりよかったんだけど、逆にそれがよくなかったんだな。他の生徒から恨みを買っちまった」

 「じゃあ、その姿も……」

 「察しの通り、恨まれてた生徒に魔法で変えられちまったんだ。元の姿の面影なんかこれっぽっちも残ってない」


 これがハルトが今の姿になるまでの経緯であった。どうせいずれかはボロが出て誰かに明かさなければならない秘密である。ならば早く誰かに話しておいた方が気が楽であった。


 「そう……だから男の子みたいな喋り方をしてるのね」

 「まあそんなところだな。あくまで変わったのは見た目だけだ」

 

 フィリアはハルトの喋り方に感じていた違和感の正体に納得がいった。それと同時に自分の理解が及ばないことでも魔法なら可能にできてしまうこともそれとなく察した。


 「元の姿には戻れないの?」

 「俺に魔法をかけた奴が戻し方を忘れたから一生このままだ」

 「なんて可哀そうに……」


 ハルトの境遇にフィリアは同情せずにはいられなかった。一時の感情で人生を狂わされたのが哀れでならなかった。


 「そんなに哀れまないでくれよ。俺も最初は恥かかされたけど今はなんだかんだでこの姿は気に入ってるんだぜ?自分で言うのもなんだけど結構可愛いし」


 ハルトは非常にメンタルが強かった。元あった姿を失ってもそれさえ糧にして進む姿にフィリアは心を打たれた。


 「ハルトちゃん。貴方さえよければずっとここにいてもいいんだからね?」

 「いやそんなずっとなんて悪いって。でも次の旅の準備ができるまでは世話になろうかな」


 思わぬところからハルトは無料で利用できる三食付きの宿を手に入れた。食費と宿泊費用がぐっと抑えられることで気持ちにもいくらかの余裕ができた。

 でもできるだけ早くお金をためてフィリアに負担をかけすぎないようにしよう。ハルトはそう誓った。


 「なあおばさん。今喋ったことは内緒にしててくれないか?」

 「わかった。私とハルトちゃんだけの秘密にするわ」


 ハルトは自分の秘密を口外しないようにフィリアに約束を取り付けた。まだ出会って間もなかったがフィリアはどことなく信用できるような気がした。


 「お話聞かせてくれてありがとう。今日はそろそろ寝るわね。おやすみなさい」

 「ああ、おやすみ」


 フィリアが退室すると同時に部屋の明かりを消し、ベッドの上で身体を丸めてハルトは静かに寝息を立て始めるのであった。

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