少し後ろめたい気持ち
その夜、ループスは窓越しに外の景色を眺めながら黄昏ていた。彼女は彼女なりに今回の一件でいろいろと思うところがあるようであった。
物思いに耽る彼女の尻尾は垂れたまま動かなかった。
「本当は家のこと、ちょっと後悔してるんだろ」
ループスの隣で一緒に外の景色を眺めながらハルトは語りかけた。彼女にはループスの思考などお見通しであった。
「まあ、俺が独立することでマグナレイドの家系は断絶するわけだからな」
ループスのいう通り、彼女が独立して家元を離れることによってマグナレイド家は正統後継者を失い、自分の代で事実上の断絶を迎えることとなった。彼女にはそんな意図は微塵もなかったのだが結果としてはそのような形になってしまったのである。
「わざわざ魔法使いの血を入れたがるようなお前の父親のことだ。どっかから養子でも迎えて家を存続させるんじゃないか?」
ハルトは気休め程度のフォローを入れた。家系の存続を重要視する上流階級であれば他所から養子を迎えて後継者にすることはあり得ないことではない。
「父上がそんなことをするようには思えんが……」
ハルト以上にクリムの人間性を知るループスはクリムが養子を取る可能性は低いと考えていた。養子を取ることを敬遠、正統後継者であることを重要視する彼だからこそループスに過剰な期待を寄せていたのかもしれないとすら思えた。
「お前は独立して自由を勝ち取った。だからもう前の家のことを考える必要はない。それでいいじゃねえか」
ハルトはループスを励ますように寄り添うと肩を叩いた。彼女の言う通り、マグナレイドの家名とは縁を切ったのだからこれ以上憂う必要はないのである。
「自分が決めてそうしたんだからさ、クヨクヨすんなって。お前、男だろ」
「今は女だが」
ループスに前を向かせるように激励しながらハルトは尻尾でループスの背をペシペシと叩いた。柔らかい毛が衣服越しにループスの背筋をくすぐる。
「やっぱりお前が隣にいてくれてよかったと思う」
「当然だな」
ループスはそう言うと自分の尻尾をハルトの尻尾に絡めた。対するハルトは特に嫌がるような素振りを見せることもなくそれを受け入れた。
「あ、そうだ。次の旅に出る前に少し寄っていきたいところがあるんだがいいか?」
「寄りたいところだと?」
「そう。海に行ってみたい」
ハルトは海に行くことをループスに熱望した。海はウォルフェアに着いたその日に宿泊した宿の窓越しに眺めただけであり、これまで見たことのなかったそれに対する憧れは未だ冷めることを知らなかった。
「まあ、いいだろう」
「よっしゃ!じゃあ明日は海に行くぞ」
時に振り回し、時に振り回されながら、それでも二人でならどこへでも行ける。
獣の耳と尻尾を持った少女同士、ハルトとループスはすでに友情以上のものを築いていたのであった。
次回に幕間を一本挟んで第七章は終了となります。




