ループスの居場所
日がそれなりに高く昇った頃、ハルトは目を覚ました。ループスの看病もあってか熱は引いて体温は正常に戻り、身体を動かすにも関節の痛みは伴わない。彼女の体調は無事に回復したのである。
「ふわぁ……」
ハルトは上半身を起こすと大きな欠伸をした。昨日は萎れていた耳も今日はピンとまっすぐ立てることができた。
「おはよう。体調が戻ったようで何よりだ」
「あー、おはよう……っておぉ!?」
ループスの声に反応したハルトはループスの姿を見て目を疑った。昨夜の姿から一変し、今のループスは全身がボロボロ、おまけに顔は打撲でところどころ腫れあがっていたのである。
「お前何やってたんだよ!?」
「決着をつけてきた」
「はぁ!?」
ハルトはまさかの事後報告に今度は耳を疑った。ループスはハルトが眠っている間に因縁の清算を終わらせてしまったのである。
「お前まさかそんな顔外に晒しながら帰ってきたんじゃないだろうな」
「なにか問題でも?」
「問題大ありだ!お前は女の子なんだぞ!?」
ハルトは大慌てでループスの傷の手当てを始めた。治癒魔法で傷を塞ぎ、打撲で変色した痣を隠すように布を当てる。今度は昨日看病されていたハルトがループスの手当てをしていた。
「痛ッ!もうちょっと丁寧にやれよ」
「昨夜俺に雑にお粥食わした奴が言えることじゃねえだろ」
手当の粗っぽさにループスが文句をつけるとハルトはすかさず反論した。素人のすることという意味では拙さはどっちもどっちである。
「ハルト。俺は今日から正式にループス・ノワールロアになったぞ」
「おぉー、じゃあ親父に認められたんだな」
「そういうことだ」
ループスは得意げになって大きな胸を張った。かねてよりの願望であった独立を直々に認められたのだから当然の反応であった。
「まあ当然の結果だな。俺が力を貸したんだからな」
「感謝する……ありがとう」
恩着せがましく振舞うハルトに対してループスは素直な感謝の気持ちを示した。予想外の反応にハルトは思わず硬直する。
「ハルト。俺、やりたいことを見つけたんだ」
「ほう。どんな?」
「お前の隣で、お前と一緒に旅を続けることだ」
ループスは自分がこれからしたいことをハルトに打ち明けた。それは聞きようによってはプロポーズとも取られかねないような言い回しであった。
「……そうかよ」
「どこへでも行くぞ。お前と一緒ならな」
ハルトは嬉しいようなそうでもないような複雑な気持ちを抱いた。ループスが自らの意思で自分についてくることを選んだことに対する喜びが半分、これからずっとトラブルメーカーが同伴してくるという懸念が半分であった。
「それならループス。俺の行きたいところに行くぞ」
「もちろん。どこへ行くんだ?」
「俺の生まれ故郷、プリモだ」
ハルトは次の行き先を自身の生まれ故郷へと定めた。彼女はループスが自身の家系との因縁を清算したことに少なからず影響を受け、自身も両親に今の自分の姿を見せようと考えたのである。彼女と彼女の両親は決して嫌悪な関係ではない、むしろ以前は良好な関係を築いていた方である。しかし今の姿になってからは一切連絡を取りあっておらず疎遠な間柄になっていた。
「いいだろう。いつ出発する」
「そうだな……お前の顔の痣がマシになったらだな」
ハルトは出発の予定を大雑把に設定した。幸いなことにもウォルフェアでは出費と収入がほぼ平行になっており、冒険者稼業などで長期滞在をする必要がなかった。つまりいつでも次の旅ができる状態だったのである。
こうしてハルトとループスは次の行き先を定め、旅の準備を進めるのであった。