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ケモミミTS魔法少女は何を見る~俺は天才だ!~  作者: 火蛍
7章 ループス親子の決別
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決戦の日

 明朝、ループスは魔法剣を携えて単身マグナレイド邸を訪れた。そこにハルトは同行していない。彼女が目を覚ます前にクリムとの決着をつけるつもりであった。

 

 マグナレイド邸の門をくぐると、玄関の前でクリムが直々に待機していた。時間規律を重んじる軍人である彼にとっては事前に約束を取り付けた相手を待たせることは無礼にあたった。それは実の子であるループスに対しても例外ではない。


 「今日は子狐を連れていないようだが」

 「置いてきました。こういう時ぐらい水入らずの一対一で向き合うものだと思いまして」


 ハルトがいないことをクリムに問われたループスはそれっぽい嘘でその場を取り繕った。ハルトが弱っているのを悟られないようにするためである。


 「父上、答えを出しに来ました」

 「よく逃げずに戻って度胸は大したものだ。では答えを聞こうか」


 ループスから宣言を受けたクリムは軍刀を己の真正面に突き立て、仁王立ちをしながら彼女と対峙した。そんな彼の振る舞いに怖気づくことなくループスは自分の中の答えを出す。


 「俺はやはりここに戻るつもりはありません。俺は貴方と戦って独立を掴んでみせます」


 一週間前と変わらぬ答えを伝えられたクリムは静かに眉間に皺を寄せた。一度実力行使で圧力をかけたにも関わらず、まさか二度に渡って実子に反旗を翻されることになるとは思いもよらなかったのである。


 「貴様、首をはねられる覚悟はあるんだろうな?」

 「上等です」


 クリムが脅しをかけながら剣を抜くとループスも即座に剣を抜き返した。こうなることはあらかじめ予想はついていた。ループスはカイルの教え通りにクリムの挙動を注意深く観察した。

 

 剣を抜いた直後、ほんの一瞬の内にクリムは剣を構えてループスへと飛びかかった。挙動は確かに素早いがしっかり注意を向けていればループスの動物的な反応で捉えられる範疇であった。

 ループスは剣を下段に構え、クリムをじっと引き寄せる。間合いが詰まった刹那、クリムが剣を振り抜いたのとほぼ同時にループスは剣を振り返した。両者の剣は刃を交え、周囲に甲高い音を響かせる。


 「前よりはやるようだな」

 

 刃を交えて競り合いながらクリムはループスの成長を少なからず実感していた。ただ後手後手に追従していただけの以前と異なり、今回は戦術として待ちに徹していることは彼にも明確に理解できた。

 二人の戦いは鍔迫り合いを通じて間接的な力比べへともつれ込んだ。身体構造が常人とは異なっているループスは単純な筋力ではクリムと互角であった。しかし体格差を覆せるほどではなく、徐々にクリムが押し込んでいく形になる。しかしこうなることはループスにも予想がついており、早々に鍔を返してクリムを払いのけるとすぐに中段の構えを取って状況を仕切り直した。


 クリムはじりじりとにじり寄り、ループスの首を狙った剣戟を浴びせかける。ループスはその尽くを見切り、一手一手を冷静に弾いて捌いていく。一手に対処すれば次の一手がどこから来るか、それにどう対処するのが最適解なのかが彼女にはわかるようになっていた。剣戟を捌き、振り返しの隙をじっと伺った。


 「お前、どこで術を学んだ」

 「それにはお答えできません」


 子の急成長に何者かの関与を疑うクリムに対してループスは黙秘を貫いた。もし父と犬猿の仲であるカイルが関わっているとあれば自身以外にも危害を及ぼす可能性があった。それはループスとしてはできるだけ避けたいことであった。

 

 その後もループスとクリムは互角に切り結んだ。クリムの剣戟を最小限の動きで回避し、時に刃を交えて受け流しながらループスは反撃の時を伺った。

 しかし刃を交える中でループスが振り返しを狙っていることに気づいたクリムは立ち回りを変え、距離を置いてループスから攻めてくるのを待つ方向へと切り替えた。


 「どうした?そちらから来ないのか」

 

 狙いに気づかれたループスは次の手を模索した。ここで安易に懐に飛び込めば即座に切り返されることは目に見えていた。極力自分が負うリスクを抑えつつ相手の待ちを崩す必要があった。

 その時、ループスは魔法剣の力の存在を思い出した。純粋な実力勝負に魔法を持ち込むのは野暮であると考えていたが今は手段を選んでいる場合ではない。

 ループスは手にした剣に魔力を込め、刃を白熱化させると大きく剣を振り抜いて衝撃波を発生させ、それをクリムに目がけて飛ばした。突然の飛び道具に反応がわずかに遅れたクリムは咄嗟に剣の刀身で衝撃波を受けるがその威力を殺しきれず、反動で大きく後ずさる。


 「貴様、剣の勝負に魔法を持ち込むか!」

 「目的のためなら使える手は使う。それが俺のやり方です」


 激昂するクリムに対してループスは己の主張をぶつけた。魔法使いでない故に剣技と体術しか武器のないクリムに対して魔力を行使できるのはループスが持つ絶対的な優位性であった。

 クリムは距離を詰めようとするが狙いすましたように飛んでくる衝撃波がそれを許さない。クリムの進路を塞ぎ、退路に先回りするようにループスは衝撃波を飛ばしながらクリムが攻め上がろうとするのを待ち続けた。



 剣術への拘りを捨てたループスの戦術が戦いの流れを大きく傾けたのであった。

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