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ケモミミTS魔法少女は何を見る~俺は天才だ!~  作者: 火蛍
7章 ループス親子の決別
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ウォルフェアに到着

 クラフテアを出発して旅をすること十数日、ハルトとループスはようやくウォルフェアの街へと足を踏み入れた。

 

 「ここがお前が育った街か」

 「そうだ。あんまりいい思い出はないがな」


 ハルトは興味津々に街の景観を眺めていた。

 ウォルフェアの街の通りには石造りの道に対して木造の家が並び立ち、どこかちぐはぐな雰囲気が漂っていた。


 「変わった家が多いんだな」

 「この街が戦場になったとき、焼き払って略奪をさせないために市民の家は木造になっている」


 ループスから語られたウォルフェアの文化の一部にハルトはドン引きさせられた。自ら家を焼くために木造で設計しているなど前代未聞であった。


 「戦場になったときって……そんなに戦争してるのかここ」

 「ここ数十年は穏便らしいがつい最近まで街そのものを戦場にしていたらしい。家の造りはその名残だ」


 ウォルフェアは軍事国家ではあるがここ数十年は戦争をしていなかった。ループスはもちろんのこと、その父クリムも戦争を経験したことはない。


 「そもそもなんでウォルフェアはそんなに戦争ばっかしてたんだ?」

 「この街が最も多くの海につながりやすい港を持ってるからだな。港を巡っていろんな場所と戦ってきた」


 港を持つことによる利権争いがウォルフェアを軍事国家として成長させた原因であった。他の街や国が持っていないものを持っているとなればあらゆる分野で優位を取ることができるも同然、周辺国がそれを欲しがるのもごく自然な反応であった。


 「港か……ってことは海があるんだよな」

 「その通りだが」

 「なら海を見てみたい」


 ハルトは海に興味津々であった。それもそのはず、彼女の故郷プリモには海がなく、これまで一度も海を見たことがなかったのである。そこについて初めてループスのことを本気で羨んですらいた。


 「海か……そんなにいいように見えるか?」

 「見える。というか見せろ」


 ハルトはループスの肩によじ登って耳元で主張した。ループスにとっては幼少期から慣れ親しんでいた海もハルトにとっては憧れ夢見た景色である。


 「お前、ここに来た目的を行ってみろ」

 「海を見ることだろう?」


 すでにハルトの思考は海に浸食されていた。時折彼女が見せる妄信的な部分が早くも顕在化してしまったことにループスは頭を抱えた。


 「違う。俺の実家に行って父上との因縁を清算するためだ」

 「えぇー!?じゃあ海は?」

 「その次」

 

 ループスはハルトの要求を真っ向から突っぱねて己の目的を優先させた。今は悠長に観光をしている場合ではない。だが後回しにしているとこのまま駄々をこねられそうな予感がしてならなかった。


 「せめて海が見える宿を取ってやる」

 「よっしゃ!よろしく頼むぜ」

 「ここからまだ結構歩くことになりそうだ」


 ハルトからの幼子のようにしつこい要求を一部飲み込み、ループスは寝泊りをする宿を探した。ハルトはループスの背から降り、大喜びで尻尾を振りながらループスの隣に並び歩くのであった。



 「すげー!あれが海か!」


 日没前、ようやく宿を取れたハルトは窓から身を乗り出して海を一望した。初めての海は青く、大きく、そして広く見えた。波で絶え間なくうねる水面はハルトの目を一瞬で虜にさせた。


 「そういえばこの宿は石造りなんだな」

 「潮風に長時間晒されると木は腐るし金属は錆びてボロボロになるからな。だから海の近くの建物は石造りが多い」

 「へぇー。詳しいじゃん」

 「ウォルフェア育ちなら当然の知識だ。大したことじゃない」


 ループスは謙遜した。彼女を始めとしたウォルフェアの人たちにとっては当たり前であったとしてもハルトにはそのすべてが初めて得る情報であった。


 「あ、寝る前に窓は閉めろよ。潮風は髪を痛めるし肌をべたつかせるぞ」

 「ええっ!?そういうのは早く言ってくれよぉ!」

 

 しれっと放たれたループスの小言を聞いたハルトは慌てて窓を閉めた。潮風が身体に悪影響をもたらすとは考えもつかなかったのである。


 「ハルト……もし俺が父上との因縁を清算したら、次はどうすればいいと思う?」

 「えー?」

 「お前に拾われたあの日からずっと考えていたがわからないんだ。自分がやりたいことが」


 ループスは自分の進路に迷っているようであった。ハルトはベッドの上で足をばたつかせながらきょとんとした表情でそれを聞き入れた。

 

 「そう言われてもなぁ」


 ハルトは困ったように返答すると立ち上がり、ループスに近寄ると彼女の頭上にポンと手を置いた。


 「今は先のことを考えるよりも、目の前のことを考えた方がいいんじゃないか?」

 「誤魔化さないでくれ」

 「誤魔化してるんじゃない。考えすぎると目の前にあるはずのものもいろいろ見失うぞって言ってるんだ」


 ループスの声色から焦りを感じ取ったハルトは宥めるように言い聞かせた。ハルトは細かいことをごちゃごちゃと考えるのが苦手であり、極力避けるようにしている。それは考えすぎで目の前が見えなくなるということを知っているからであった。

 ハルトに宥められたループスはぺたりと耳を伏せた。

 

 「それはともかく、風呂行こうぜー。潮風って肌べたつくんだろ?」

 「……あぁ、そうだな」

 

 話題を切り上げ、ハルトはループスを風呂へと誘った。それは思い悩むループスの気分転換も兼ねての行動でもあった。



 「うわ。なんかベタベタする」

 「言っただろう。潮風に晒されるとべたつくって」

 「もっと早く言ってくれればこうならなかったのになぁ」


 ハルトとループスは自室に鍵をかけ、宿の風呂へと足を運ぶのであった。

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