さらばクラフテア
手紙が届いてからさらに数日、ウォルフェアへと出発する準備を終えたハルトとループスはクラフテアで世話になった人物たちに別れの挨拶をして回っていた。
とはいってもそのほとんどはこの街を拠点とする冒険者にギルドで挨拶をする程度であった。
「もう行っちゃうんですか」
「次の行き先が決まったし、準備もできたからさ。短い間だったけど世話になったな」
「こちらこそ。貴方たちならどこへ行ってもうまくやれますよ」
ギルドの冒険者たちはハルトたちとの別れを惜しんだ。ハルトたちは別れにくくなるのをぐっとこらえ、冒険者ギルドを後にした。彼女たちはもう一つ行っておきたい場所があったのである。
そこは冒険者たちへの別れの挨拶を済ませた二人はクラフテアで最も深く関わった人物の元。シーラ、リリアン、レナが暮らすマーキス邸であった。
「そう。次の行き先が決まったんだね」
「そういうこと。だから挨拶に来たってわけ」
シーラはマーキス邸の玄関先でハルトたちと話し込んでいた。その話し声を聞きつけてリリアンとレナもやってくる。
「やあ。今日は何の用かな?」
「この街を離れて次の旅をすることにしてな、その挨拶に」
ループスが来訪理由を説明するとリリアンとレナは揃ってぽかんとした表情を見せた。わずかな硬直の後、それが何を意味しているのかを理解した二人は感嘆の声を漏らした。
「えぇー!?それってつまり……」
「もうレナとは遊べなくなるの?」
「まあ、そういうことになるな」
リリアンとレナはハルトとループスの二人と遊べなくなることを嘆いていた。まったく同じことを考えているあたり、やはり親子である。
「なんでアンタも一緒になって残念がってるんだよ」
「だって君たちがいなくなったらおちょくって遊べる相手がいなくなっちゃうじゃないか」
リリアンは当然のように言い放った。彼女にとってハルトとループスは遊び道具のように考えられていたようである。
「誰のおかげでここに戻ってこれたと思ってるんだ」
「悪い悪い。それについてはちゃんと感謝しているよ」
ハルトに煽り返されたリリアンは謝礼の言葉を述べた。リリアンは超が付くほどの気まぐれ屋だがそれはそれ、これはこれと分別をつけることはできた。
「レナちゃんも大きくなっていろんなところを行くようになったら、いつかお姉ちゃんたちに会えるかもよ」
「本当?」
「ああ本当だとも」
「じゃあレナは大きくなったらお姉ちゃんたちに会いに行く!」
「そっか。楽しみにしてるぞ」
ハルトはレナの頭を撫でながら彼女の行動意欲を焚きつけた。凄腕冒険者のリリアンの血を引く彼女ならいつか本当に追いついてくるかもしれないとハルトは淡い期待を寄せた。
「あまり長居するのもよくないな。そろそろ行くか」
「そうだな。じゃあ、元気でな」
マーキス家の人々に挨拶を済ませたハルトとループスは踵を返してマーキス邸を後にした。これで挨拶回りは終わり、心置きなくウォルフェアへと向かうことができる。
「ウォルフェアまではどうやって行くんだ?」
「しばらくずっと北に向かい続ける。ここから結構遠いぞ」
ハルトにウォルフェアへの道のりを尋ねられたループスは簡潔にそう答えた。ウォルフェアはループスが生まれ育った故郷、地図がなくてもたどり着くことができる。
「お前、家族との因縁を清算した後はどうするか決めてるのか?」
「決めてない。そういうことは後回しでもいいだろう」
「それもそうか」
ハルトはループスを頼りに二人で次なる旅路を行くのであった。
次回に幕間を一本挟んで第六章は終了となります。