母娘の再会
ハルトがシーラと話をつけている頃、ループスはリリアンを連れてレナと戯れていた。
「狼のお姉ちゃん!レナと遊ぼー!」
かねてよりハルトとループスが遊びに来るのを待ちわびていたレナは大はしゃぎでループスにじゃれついた。リリアンはそんな様子をもどかしそうに眺めている。
「ねえねえ。そこにいる人は誰?」
「お姉ちゃんの知り合いでね。凄腕の冒険者なんだ」
レナはすぐに興味の対象をリリアンに移した。ループスはそれを待っていたと言わんばかりにリリアンを紹介した。
「やあ。私はリリアンっていうんだ」
リリアンは簡潔にレナに自己紹介をした。後ろめたさがあるからなのか、自分がレナの実の母だとは言い出せなかった。
そんな彼女をレナは不思議そうに見つめる。
「どうしたのかな?」
「うーん……わからないけど、レナは貴方を知ってる気がするの」
レナはリリアンに対して不思議な感覚を覚えていた。レナはリリアンの顔を知らないはずなのに、なぜか他人ではないような気がしてならなかった。この場にいる人物の中でレナとリリアンが血のつながった親子であることを知らないのはレナ本人だけである。
「そう……不思議だね」
リリアンは種明かしをするようなことをせず、レナの間隔を一緒になって不思議がった。自分が母親であることを打ち明けるタイミングがますます遠退いていく。ループスはなんとももどかしい気持ちにさせられた。
「ねえねえ、それより貴方冒険者なんでしょ?どんなことしてたの?」
「気になるかい?」
「うん!聞かせて聞かせて!」
レナは不思議な感覚のことをすぐに忘れてリリアンに冒険者としての経歴を尋ねた。移り気がちなところに自分の面影を感じつつもリリアンは過去の冒険の数々を大げさな表現を交えながら語った。
多少なりとも母娘の距離を詰めることができたことに安堵したループスは少しずつ二人から遠ざかり、その様子を傍観していた。
気づけばリリアンはレナを自分の膝の上に乗せていた。楽し気に語らうリリアンと、それを彼女の膝の上で夢中に聞き入るレナの姿は紛れもない親子のそれであった。
あとはリリアンが自分が母であることをレナに打ち明けるのみであった。
「よう。そっちはどうだ?」
ループスがリリアンとレナがいい雰囲気になっているを眺めていたところへシーラとの商談を終えたハルトが合流してきた。
「今母娘がいい雰囲気になってるところだ」
「リリアンはちゃんと自分が母親だって伝えたのか?」
「いや、それがまだだ」
ループスが現在の進捗を伝えるとハルトは呆れてため息をついた。あれだけ饒舌で掴みどころのないリリアンだったが娘に対してはかなり奥手のようであった。
「あっ!狐のお姉ちゃん!」
ふと視線を移してハルトの存在に気付いたレナは大喜びでハルトの方へ駆け寄ってきた。かねてより再会を楽しみにしていたレナにとってハルトはリリアンよりも興味を引かれるものであった。
「ようレナちゃん。ちゃんといい子にして待ってたか?」
「うん!だからいっぱい遊ぼ!」
レナはハルトに抱き着いて目いっぱいにアピールを仕掛けた。そんな娘の姿を見たリリアンはどこか寂し気な、それでいて妬みがこもったような視線をハルトへと送った。視線から気まずい空気を感じ取ったハルトはレナをあやしながら苦笑いした。
「まあレナはアンタの顔も覚えてないんだからこんなもんだろう。また少しずつ距離を詰めていけばいい」
ハルトに夢中になっているレナを見て肩を落としたリリアンにループスがフォローを入れた。レナがこういう反応を見せるのは当然と言えば当然のことである。リリアンもそれはわかっていたのだが実際にそれを眼前にするのは少なからず堪えるものがあった。
「今はそれでいい……それでいいんだ」
ハルトたちがレナと一緒に過ごす姿をシーラは陰から密かに見守るのであった。




