ばったり遭遇
ガラクタを集めた翌日、ハルトはループスを連れてクラフテアに滞在している宝石商を探し回った。大型銃のフレームの素材に使用する魔法石を手に入れるためである。
「えぇ……魔法石はうちじゃ扱ってないなぁ」
探し回ること数時間、ようやく見つけた宝石商に尋ねると彼は申し訳なさそうに魔法石を取り扱っていないことをハルトたちに説明した。
「マジかよ……」
「悪いね。魔法石は本当にごく一部の人にしか仕入れられなくてね」
「じゃあ仕入れられる人から買う。心当たりはないか?」
宝石商曰く、魔法石はただ高価なだけでなく、それを仕入れられる人間も限られているようであった。それを知るや否やすぐにハルトは購入できそうな人物を探った。
「あー……シーラさんなら仕入れてくれるんじゃないかな」
ハルトに食い下がられた宝石商はシーラの名を挙げた。
「シーラって、シーラ・マーキスのことか?」
「知り合いだったのかい?彼はその筋の世界じゃやり手の宝石商だよ。仕入れ先の人間の方からシーラさんに売りに来るぐらいだからね」
ハルトたちはシーラが何をしている人物なのかをここで初めて知ることとなった。それほどの宝石商であればクエストに莫大な報酬金をかけられること、娘との二人暮らしで豪邸を構えられていることにも納得ができた。
「情報ありがとな。そっちを当たってみる」
ハルトはさっと踵を返すと一目散にシーラの屋敷へと向かっていった。ループスは小さなため息をつくと宝石商に頭を下げ、ハルトの後を追った。
そんな二人の後姿を宝石商はただ呆然と眺めるのであった。
「まさかシーラさんが宝石商だったなんてな」
「予想もできなかった」
ハルトとループスが軽いやり取りを交わしながらマーキス邸を訪れるとその門前に一人の女性の姿が見えた。彼女はマーキス邸に足を踏み入れようとしているわけでもなく、ただじっと立ち止まって眺めているようであった。
そして、ハルトはそんな彼女の姿に見覚えがあった。
「何してるんだ?」
ハルトが声をかけると、女性はそれに反応してゆっくりと振り向いた。記憶と相違ない、彼女は以前訪れた憩いの家の主人であった。
「やあ。こんなところで会うとはね」
「ちょうどいい。アンタに聞きたいことがあったんだ」
ハルトは女主人の声を聞いて同一人物であるという確信を得るとかねてよりの疑問をぶつけることにした。
「何かな?」
「アンタ、名前はなんていうんだ?」
「私の名前かい?」
女主人はそこまで言うと答えを渋るように言葉を詰まらせた。まるでこの場でそれを言うのが気まずいと言わんばかりの様子である。
「リリアン・マーキス……だろう」
ループスが分かり切ったように尋ねると、女性は静かに首を縦に振った。彼女こそがクラフテアの冒険者たちに昔から名を知られた存在でありながら正体不明の冒険者、リリアン・マーキスその人であった。
「バレちゃったか。そうとも、私がリリアン・マーキスさ」
リリアンは正体を看破されていたことを悟ると開き直ったように名乗った。ハルトたちが探し求めていた人物は今まさに彼女たちの目の前にいた。
リリアンはおもむろにループスに近寄ると片膝をついて彼女の下半身をまじまじと観察し始めた。理解不能な行動にループスは困惑し、じっとリリアンを待つ。
「君、引き締まったいい脚をしているねぇ。冒険者でもやってるのかな?」
「まあ、一応冒険者だが……」
「やはり。私の目に狂いはないようだ」
リリアンは支離滅裂なことを口走りながらループスの肩を叩いた。目に狂いはなくとも行動原理は意味不明で狂っているとしか言いようがなかった。
「まあここでまた会ったのも何かの縁だろう。今日は憩いの家を貸し切りにしてあげるから今夜おいで」
リリアンはそう言い残すと逃げるように去って行ってしまった。ひっそりと冒険者を続けているからか、その足取りは非常に軽やかでハルトたちの目にはあっという間にリリアンの姿が見えなくなった。
「どういう人間なんだアイツは」
「まったくわからん」
ハルトとループスはやはり意味不明なリリアンの行動に首を傾げるしかできなかった。
二人はリリアンとの約束を優先し、シーラとの接触をいったん後回しにしてマーキス邸を離れるのであった。




