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ケモミミTS魔法少女は何を見る~俺は天才だ!~  作者: 火蛍
6章 ケモミミ少女、冒険者になる
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ハルトの原点

 暴走ゴーレムを破壊した日の夜、ハルトは机に向かい合って手持ちの銃の修理とをしていた。高出力の弾を何発も発射した反動で銃口が溶けて歪に変形してしまったのである。このままでは他の弾を使用するときにも弊害が出かねない。

 それと同時に新たな銃の設計プランを思いついたハルトはそちらへ着手すべく修理を急いだ。


 「にしても、あんなゴーレムを作れるなんてどんな魔法使いなんだろうな」

 

 修理に勤しむハルトに背後からループスが声をかけた。彼女は昼間のゴーレムの製造主のことが気になっているようであった。

 

 「まったくだ。いずれにせよこの街の近くにいて、あんなデカいものを錬成できるぐらいの魔力があるってことは確かだな。制御には失敗したみたいだが」


 ハルトは修理に集中してループスの方に振り向くことなく答えた。かなりの力を持った魔法使いであることは確かだがそんなことはハルトの興味の対象にはなり得なかった。

 

 「よーし、修理終わりっ!」


 銃の修理を終えたハルトは大きく背伸びをした。背筋を伸ばすとそれに連動して耳と尻尾がピンと上を向く。

 伸びをしたハルトはそのまま大きく深呼吸をすると再び机に向かって今度は新しい銃の設計図の作成に取り掛かった。机上に大きな紙を広げ、アイデアの赴くままにペンを走らせる。


 「今度は何を作るんだ?」

 「次はデカいこれを作る。威力の高い弾の連続使用に耐えられて、弾のブレが少ない奴をな」


 新しい銃のコンセプトは二つ。『高威力の弾の連発に耐えうる耐久性』と『弾道のブレの矯正』であった。これは先のゴーレムとの交戦において最も大きく露呈した課題である。

 これまでは一、二発で片を付けてきたがそれ以上の火力を大量に要する場面になると銃そのものの耐久力の限界が見えてしまう。さらに長距離からの射撃になると弾道がブレて目標から外れる可能性も無視できなかった。

 

 「ここをこうして……あっ、これとかどうだろうか」


 ハルトは独り言を零しながら設計図を作り上げた。無意識に耳をピコピコと動かし、尻尾が左右にフリフリと揺れる。設計図の作成や実物の制作を含めた機械いじりはハルトの最大の趣味であった。

 そんなハルトの様子をループスは寂しそうに見つめていた。彼女にはハルトの持つ銃をはじめとした機械のことはさっぱりであった。むしろ魔法使いが機械に疎いのは当然の反応である。


 「それってそんなに面白いのか?」

 「めちゃくちゃ面白いぞ」


 寂しそうに設計図を覗き込むループスにハルトは視線を向けずに嬉々としながら答えた。ループスはハルトがなぜそこまで機械好きなのかを知りたくなってきた。


 「お前、魔法使いなのにどうして機械が好きなんだ?」

 「えー?なんかカッコいいじゃん」


 ハルトがそう答えるとループスは思わず目を丸くした。


 「……それだけ?」

 「まあ他にも理由はあるんだけどな」


 そう前置きするとハルトは語り始めた。


 「俺が庶民の出身なのはお前も知ってると思うけどさ、俺は昔は魔法の勉強よりも畑仕事とかの手伝いをする方が多かったんだ。昼は畑の手伝い、夜は魔法の勉強って感じだな」


 ハルトの家庭は本人が語る通りの庶民階級であり、裕福ではない。魔法使いとしての職だけでは稼ぎが足りず、農業の手伝いをして分け前を貰って日々を過ごしていた。


 「俺の育った町には新しい物好きの変わった農家の人がいてさ、その人が使ってたのが当時できたばっかりの機械だったんだ」


 ハルトの機械との出会い、その始まりは幼少期にあった。ループスは興味深く聞き入る。


 「それは燃料を使って動かして草を刈る機械だったんだけどさ。俺はそれを見て衝撃を受けたんだ。俺たちが汗水流して何時間もかけて刈ったのよりも広い範囲の草をたったの数分で刈り取っちまったんだからな」

 「魔法を使えばそれぐらいなら……」

 「わかってないなぁ。魔法を使わなくてもそれぐらいのことができるってことに感銘を受けたんだよ」


 ハルトが機械に惹かれた理由、それは『魔法使いでなくても力を得られること』にあった。機械がもっと発展していけばいずれは魔法使いと一般人の差が埋まる時が来るかもしれない。その日を見るのが楽しみであった。


 「だから俺は機械を触ることに抵抗はないし、なんなら自分で作るのが好きだ。今は魔力で動く機械しか作れないけど、いつかは魔力を使わなくても動くのを自分で作ってみたい」

  

 設計図を作成しながらハルトは機械への思いを語った。


 「やっぱりお前は変わり者だな」 

 「そうか?」


 ループスは改めてハルトが魔法使いとしては異端な存在であることを認知した。彼女が庶民だったからこそこうなったのである。もし彼女が同じ能力を持って自分と同じような上流階級に生まれていたとすればきっとこうはならず、どこかで代り映えのない魔法使いになっていたのかもしれない。幼き日のループスには決して見えなかったものをハルトは見ていたのだ。


 「今日は疲れただろう。もう寝た方がいいぜ。俺ももうちょっとこれやったら寝るからさ」


 ハルトはループスに寝ることを促した。ゴーレムの足を切断するという大役を務めあげた彼女は実は疲労困憊状態であった。

 食い下がるだけの体力も残っていないループスはハルトの言う通りに眠って回復に集中することにした。



 手元だけを照らした机に向かうハルトの後姿を眺めながらループスはベッドの上で身体を丸め、静かに瞼を閉じるのであった。

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